顧客の行動変容はBtoCの分野だけでなく、BtoBの分野でも進んでいる。「顧客を見つける」というこれまでの営業スタイルから、「顧客から見つけてもらう」企業を目指して、営業とマーケティングのデジタル化を進めているのが横河電機だ。
横河電機の常務執行役員兼マーケティング本部本部長兼CMOであり、博士(技術経営)の阿部剛士氏が1月27日にオンラインで開催された「ビジネス・フォーラム事務局×TECH+フォーラム Marketing Day 2022 Jan. 顧客起点にビジネスを構築するマーケティング経営」で、同社の取り組みを紹介した。
根強い訪問営業への信仰と、買い手の行動変容
阿部氏はまず、BtoB向け営業を取り巻く状況について、市場のデータを用いて解説した。
日本は対面営業を重視する国と言われる。実際、市場データでも、顧客が営業担当に訪問してほしいと考える理由として、「顔を見ると安心感がある」「ビデオ会議や電話で説明を受けるには複雑すぎる商材だから」などが挙がっているそうだ。その一方で、「現在の営業担当が変更になると取引を見直したいと思うか」という問いに対しては、約72%が「思わない」と回答。これを受け、「対面営業における営業担当の価値は、(顧客に)あまり感じられていないのではないか」と阿部氏は推測する。
ではコロナ禍において生活様式が変化した後、顧客は対面営業についてどう感じているのだろうか。「コロナ終息後も対面営業を望むか」という質問を見てみると、50歳未満は30%、50歳以上は43%が望むと回答している。一定数が対面を望んでいることがわかるが、一方で顧客側では購買行動のデジタルシフトが着実に進んでいるというデータもある。新型コロナウイルスの流行により「顧客の行動に変化を感じたか」というマーケッター向けの質問では、73%が「変化あり」と回答。具体的には、「オンラインでの情報収集が増えた」「ウェビナーでの情報収集が増えた」「メール・HPなどでの問い合わせが増えた」などが挙がったそうだ。
これらのデータを紹介した後、阿部氏は、以下の3つをポイントとして挙げた。 ・日本の営業担当者は、本来の営業以外の業務に割く時間が全体の4分の3を占める ・39.2%の組織で、「顧客情報の管理方法が明確ではない/わからない」状態で、”やみくも営業”を続けている ・買い手が営業担当者の訪問を希望する理由は、「誠意」と「安心感」。根強い訪問信仰が残る一方で、訪問を通じて見せた「誠意の対価」として顕著な成約率のアップが得られるとは限らない
「足で稼ぐ営業はそろそろ限界ではないでしょうか。これからは、これまでの営業をどうやって突破していくかが重要になってきます」(阿部氏)
価格よりも顧客体験を重視
ポストコロナの営業について、阿部氏は「コンサルティング型に変わっていく必要がある」と考えている。
コンサルティング型の行動様式は、これまでのプロダクト起点から、顧客課題起点に変化する。顕在化したニーズに対応するのではなく、潜在的な問題を発掘することが求められ、関係性ドリブンからファクトベース・データドリブンに変わる必要がある、と阿部氏はみている。そのため、求められるスキルも、構想力や課題解決力などの「コンセプチャルスキル」が重要視されるという。マインドセットは、受注をKPIとした短期的思考から、顧客成功をKPIとする中長期思考への変化が求められているのだ。
すでに米国では、2016年に実施されたBtoBのバイヤーに対するアンケートにおいて、サプライヤーを探すときに最初にする行動として9割が「Googleなどの検索」を挙げていたそうだ。情報の取得については「企業のWebサイトから収集」が63%でトップ。また、問い合わせに対するレスポンス時間への期待が高まっているという傾向も見られるという。58%が最初の回答を24時間以内に欲しいと回答しており、「スピード感を持って対応する必要が出てきている」と阿部氏は読み解く。
さらに阿部氏は「購買意思決定では、価格よりも顧客体験が重要」(64%が回答)という調査結果を紹介しながら、「顧客を正しく理解した上で、自部署だけでなく、自社全体として期待を上回る水準を目指すことが求められている」と述べた。
一方で、顧客の購買パターンにおいて、「営業からの情報提供・提案・契約」が占める比率は低くなり、「顧客自らが調査・評価」が大きくなっている。外部に問い合わせる前に自社の購買プロセスが完了している割合は65%だというデータを示した阿部氏は、直接的な営業活動の割合が減少し、新しいやり方で営業活動を進める段階に入っていることを示唆した。