カメムシの一種で輝く緑の体色が美しい「ナナホシキンカメムシ」は、体を振動させたり、相手の周囲を回ったり、触角で触れ合ったりと、まるでダンスを踊るように求愛行動をしているー。そんな生態を森林研究・整備機構の森林総合研究所と弘前大学の研究グループが明らかにした。こうしたダンスのようなコミュニケーションは哺乳類や鳥類などの脊椎動物にはよくあるが、昆虫で見られるのは珍しく、交尾に至る求愛行動であることが今回はっきりしたという。

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    ナナホシキンカメムシのペア(森林総合研究所と弘前大学提供)

ナナホシキンカメムシは体長2.5~3センチ。体色は美しく輝く緑色で、この仲間は海外では「宝石カメムシ」とも呼ばれる。亜熱帯地域に分布し、日本では沖縄県などに生息する。このカメムシが特徴的な行動をとることは文献や昆虫研究家の観察で知られ、求愛のための行動と考えられていた。しかし、具体的にどのような行動(シグナル)が使われ、その順序に意味があるのか、など詳しいことは分かっていなかった。

森林総合研究所と弘前大学の研究グループは、野外で捕まえたナナホシキンカメムシのオス、メス18ペアを室内で鉢植えにしたクワズイモの葉の上に乗せて観察した。すると、観察した18ペア全てが野外で見られるのと同じ行動をとった。13ペアはこの行動の後に交尾に至り、一連の行動は求愛行動であることが確認できた。

また、交尾に成功したペアでは共通した一連の行動をとることも分かった。最初の段階「デュエット」でオスが腹部を振動させながらメスの周囲を歩き回り、メスも時折オスの方を向いて腹部を振動させ、交互に振動を示し合う様子が見られた。続く段階「コンタクト」では、メスがストロー状の口を伸ばし、オスの背面に接触。その後、オスとメスは互いに触角で触れ合った。

デュエットからコンタクトまでのダンスのような行動は平均4回繰り返された。そして、「交尾準備」の段階では、オスがメスに近づきながら前脚と中脚で葉を激しく叩く様子がみられ、メスが腹部の先端を上げて交尾に至った。交尾までの時間は、オスとメスが対面してから平均16分だった。視覚、触角などを使った複数のシグナルの組み合わせや順序づけによるコミュニケーションとみられるという。

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    ナナホシキンカメムシの一連の求愛行動。まるでダンスを踊っているかのように多様な行動パターンを順番に行うことが分かった(森林総合研究所と弘前大学提供)

研究グループによると、こうしたコミュニケーションは、人間を含む哺乳類や鳥類などの脊椎動物を中心に発達した能力と考えられてきた。今回、無脊椎動物である昆虫でもこうした高度なコミュニケーションを行っている可能性が示されたという。

同グループは今後、さまざまな動物のコミュニケーションを系統的に調べ、このような精巧なコミュニケーションがどのようなプロセスを経て発達してきたのか、その進化の謎を明らかにしたい、としている。

研究成果は米科学誌「エコロジー」に1月21日掲載され、森林総合研究所と弘前大学が2月1日発表した。

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