大阪大学(阪大)は2月16日、広く普及しているフィルム型の金属箔ひずみゲージに比べ、約500倍のひずみ検出感度を実現したスピントロニクスを活用したフィルム型ひずみゲージを開発したと発表した。

同成果は、阪大 産業科学研究所の千葉大地教授らの研究チームによるもの。詳細は、応用物理学を扱う学術誌「Applied Physics Letters」にオンライン掲載された。

次世代のエレクトロニクスデバイス技術としてスピントロニクスが注目されている。しかし、スピントロニクスの研究開発の多くは磁気記録や磁界検出などの分野であり、これまで力学情報などのセンサ技術への応用はあまり進められてこなかったという。

そこで研究チームは今回、スピントロニクス素子を用いた力学センサの開発を試みることにしたとする。

具体的には、柔らかいプラスチックフィルム(フレキシブル基板)上に、HDDの読み取りヘッドや固体磁気メモリに利用されている磁気トンネル接合を形成し、フィルム型ひずみゲージを作製。この磁気トンネル接合は、2層の磁性ナノ薄膜で絶縁体のナノ薄膜をサンドイッチした構造で、フィルムを引っ張ると、磁気トンネル接合にひずみが加わり、2層の磁性ナノ薄膜の磁化の相対角度が変化することで、トンネル電流の大きな変化(電気抵抗の大きな変化)が引き起こされることとなる。

実際の測定では、約1000というゲージ率となり、これは広く普及しているフィルム型の金属箔ひずみゲージに比べ、およそ500倍ほどのひずみ検出感度に相当するという。

一方で課題として、外部からわずかだが磁界を意図的に印加しないと安定した動作が得られなかったことが確認され、その対応として、実用化されている磁気トンネル接合で良く使われている「交換バイアス」を用い、磁界を印加せずともひずみゲージとしての動作が得られることも実証したほか、ひずみを加えたりもとに戻したりしても、素子抵抗がひずみに対して一意に決まり、完全にリバーシブルな動作が引き起こせることも判明したとする。

さらに今回の実験セットアップでは、高感度なひずみ検出動作を行うため、ある程度のひずみを加える必要があること、つまり、しきいひずみが存在するという課題もあったことから、シミュレーションによるしきいひずみのメカニズムと、しきいひずみが存在しない条件が確かめられたほか、ひずみゲージとして利用する際に重要な、ひずみに対する電気抵抗の変化の線形性を保つための条件も解明。これにより今後、このひずみゲージの社会実装に向けた取り組みが加速することが期待されると研究チームでは説明している。

なお、今回の実験に用いられた磁気トンネル接合は1mm四方のおよそ6800分の1という小ささながら、実際に量産固体磁気メモリで用いられている磁気トンネル接合はさらにその数十万分の1という大きさであることから、磁気トンネル接合を用いるや極小ひずみゲージの作製が可能となると研究チームでは説明しており、今後、フレキシブルエレクトロニクスの発展とともに、このような微細な磁気トンネル接合をフレキシブル基板上に集積化して利用できる可能性があるとする。

  • スピントロニクスひずみゲージ

    (a)引っ張り試験機でプラスチックフィルム上の磁気トンネル接合を引っ張っている様子(上)と試料の模式図(下)。(b)磁気トンネル接合の素子抵抗の引っ張りひずみによる変化 (出所:阪大Webサイト)