日本原子力研究開発機構(JAEA)と近畿大学(近大)は2月16日、原子番号119以降の新たな超重原子核を合成するために重要視されている原子核反応の1つである「多核子移行反応」において、中性子過剰核として残るか核分裂してしまうかの運命を左右する重要なパラメータである、生成された原子核に与えられる角運動量を実験的に決定することに成功したと発表した。
同成果は、JAEA 先端基礎研究センター(ASRC) 重元素核科学研究グループの田中翔也学生実習生(日本学術振興会 特別研究員/近大大学院 総合理工学研究科 大学院生)、JAEA ASRCの廣瀬健太郎研究副主幹、同・西尾勝久研究主席、近大大学院の有友嘉浩教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、理論的および実験的な原子核物理を扱う米物理学会が刊行する学術誌「Physical Review C」に掲載された。
現在、人工原子核の合成において、119番以上の第8周期元素の合成を目指した研究が世界中で進められている。陽子数・中性子数ともに大きく、極めて寿命の短い人工元素の領域の原子核のことは「超重原子核」などと呼ばれ、その合成のファーストステップと考えられているのが、超重原子核の領域において、極めて短寿命な不安定核の大海の中に存在する「安定の島」への到達だとされている。
陽子と中性子には、それぞれ原子核の安定性を向上させる「魔法数(マジックナンバー)」と呼ばれる個数が存在するが、安定の島は、超重原子核の領域において、陽子もしくは中性子のどちらか、または陽子・中性子ともにその魔法数を満たした原子核が存在する領域のことであり、魔法数を満たした原子核群は、周囲が1秒よりもはるかに短い極めて短寿命の不安定核しかない中、(周囲よりは)安定して長寿命となることが期待されており、その長寿命がゆえに原子核の構造などを調べやすくなることから、原子番号119以降の元素合成のための大きな足がかりになると考えられている。
しかし、安定の島に到達するには、これまでの原子核同士を融合させる方法では中性子数が不足してしまうという課題があったとする。そこで、注目されているのが、原子核同士の衝突で起こる過程の1つで、いくつかの中性子や陽子を交換する多核子移行反応だという。
原子核同士の衝突反応の直後にできた原子核(複合核)は、一般に励起状態にあり、そこから中性子を1個放出して冷えて固まることで、中性子過剰核ができあがるが、このとき条件次第で複合核は核分裂して壊れてしまう可能性もあり、その運命を左右する重要なパラメータが角運動量とされている。
角運動量が大きいと複合核が核分裂で失われる割合が増えるので、複合核の角運動量を知ることが重要となる。そして角運動量を定量的に評価できれば、衝突させる核種やビームエネルギーなど、中性子過剰核の生成方法を最適化しやすくなる。しかし、これまで同反応において重要な角運動量の詳細な測定はなく、特に、移行する中性子や陽子の数に対する角運動量の変化を調べた例はなかったという。
今回の研究では、多核子移行反応で生成されるさまざまな複合核が同定され、かつ複合核の回転軸を決めながら放出される核分裂片の角度分布が測定され、角運動量が実験的に決定されることとなった。
その結果、複合核が核分裂し、核分裂片が飛び出す際の回転軸に対する核分裂片の飛行角度θは、θ=90°方向に多く放出されることが観測され、角運動量が与えられることが判明したほか、核分裂片の角度分布の理論計算との比較から、複合核の角運動量が決定されたとする。
また、陽子と中性子の移行において、各核種で角運動量に違いがないことも確認されたほか、移行する中性子・陽子の数が少ないうちは、移行する中性子・陽子の数に伴って角運動量が増えるが、3個を超えると角運動量は飽和することも判明したとする。
なお、研究チームでは、今回の研究成果について、多核子移行反応の角運動量が付与されるメカニズムを明らかにする上で重要な知見を与えるもので、安定の島に向かう未開拓領域の原子核を生成する指針を与える一歩となるとしており、今後は、さまざまな入射核や標的核を組み合わせた場合や、衝突させるエネルギーへの依存性について明らかにし、角運動量を決定する精度の高い理論の構築を目指すとしている。