2021年に経営統合を果たし、新たに発足したアイシン。自動車部品専門のものづくり企業である同社は、「“移動”に感動を、未来に笑顔を。」を経営理念に掲げて、“全員参加”をコンセプトにDXを推進している。

さまざまなデータを活用した開発・生産プロセスの革新や、位置情報を活用した事業の創出など、DX導入による成果が着実に見えてきているという同社は、いかにしてDXを軌道にのせたのか。

12月9日、10日に開催された「TECH+EXPO 2021 Winter for データ活用 データが裏づける変革の礎」にアイシン取締役・副社長執行役員 DX戦略センター長、Chief Software & Digital Officer、CSSカンパニープレジデントを務める鈴木研司氏が登壇。同社におけるDX導入の背景と、具体的な取り組みについて語った。

電動化への対応と成長領域へのシフトが急務

アイシンは主にパワートレインやCSS(コネクティッド&シェアリングソリューション)、走行安全、車体、アフターマーケットなどの自動車部品の製造・販売に強みを持つほか、デリバリーサービスや住宅リフォームといった新規事業も展開している。グループ全体で207社を抱え、従業員は37,000人、連結全体で約12万人という大企業である。

同社で取締役・副社長執行役員を務め、同時にDX戦略センター長としてDXを指揮する鈴木氏は、「個社ではなく、グループ全体でDXを考えている」と語る。

  • アイシン取締役・副社長執行役員 DX戦略センター長、Chief Software & Digital Officer、CSSカンパニープレジデントを務める鈴木研司氏

背景にあるのは、グループの経営統合だ。2021年にグループの2大企業と言えるアイシン精機とアイシン・エィ・ダブリュの経営統合によって発足したアイシンでは、カーボンニュートラルやDXなどを重点経営課題として捉え、その取り組みに邁進している。中でも、注力する分野として鈴木氏が挙げるのが「電動化への対応」と「成長領域へのシフト」である。

これまでもアイシンは積極的に新製品を開発してきたが、「(世の中が)電動化に向かうスピードを考えると、さらに品揃えを強化するためにも、開発スピードと生産効率を向上させなければならない」と鈴木氏は言う。

もう1つの課題である「成長領域へのシフト」については、新規事業の創出というかたちで対応していく。その根幹を成すのが、ソフトウエアファーストの概念だ。

「従来のものづくりに加えて、ことづくり、つまりソリューション型商品を提供していきます。そのためにソフトウエアエンジニアのパワーを使っていきたいのです」(鈴木氏)

  • ソフトウエアの力を使った成長領域へのシフト

DXがもたらしたプロセスの革新

ここで鈴木氏は、アイシンが描くDXの全体像を提示した。注力分野である「電動化への対応」と「成長領域へのシフト」を軸とし、プラットフォームの構築によってそれぞれを推進していくことを狙う。ポイントになるのは、両軸を支えるAI分析シミュレーション技術である。

例えば、IoTによって収集した大量のデータをAIによって分析・活用することで、電動化対応に向けたデータドリブンマネジメントや3Dバーチャル生産準備といったプロセスの革新へとつなげることが考えられる。収集したデータが車両データであれば、位置情報活用サービスや物流ソリューション、ライドシェアといった新規事業の創出、すなわち成長領域へのシフトにつながるといった具合だ。

  • アイシンのDX全体構想

講演では、プロセスの革新と新規事業の創出、それぞれの具体例についても語られた。

まず、プロセスの革新については、IoTなどで収集したリアルのデータを3Dバーチャル空間で生産準備などに活用する試み「サイバーフィジカルインフォーメーションファクトリープラットフォーム」が挙げられた。これまで、生産準備は商品企画、製品設計、工程設計、量産という流れで進めていくことが一般的だったが、サイバー空間でシミュレーションを行うことで、製品設計と工程設計の効率化が可能になり、開発期間を約30%短縮できるという。

また、同社は設計から生産までの業務を管理するためのプラットフォームも構築。同プラットフォームは、申請書の処理や予算管理、成果物管理などのタスクや工数を可視化した上で、一連の流れをAIで分析するものだ。この取り組みにより、どの工程が非効率だったのか、どこに工数がかかっているのかなどが明確になった。

生産管理においてもデジタルによる革新が起きている。これまで人が作業していた検査工程にIoT測定器や測定データをシステムに反映する仕組みを導入。結果として大幅な省人化に成功し、固定費の改善につながった。

従業員エクスペリエンスの向上にもデジタルが一役買う。従来の現場は、チームの班長が生産状況の確認から異常発生への対応までさまざまな業務を行っており、負担も大きかった。そこで同社は生産管理をデジタル化するアプリケーション「班長ナビ」を導入。その結果、あらゆる通知をスマートフォンで受け取れるようになり、リモートでの対応が可能になるなど、業務の負担が軽減された。

ユニークなのが、パノラマ写真と点群データを用いて工場全体の地図をデジタルで作成する「ファクトリービュー」という試みだ。どこにいても工場内の閲覧とデータ計測が可能になり、工程を事前にシミュレーションすることが可能になった。

「工場内の地図を作る取り組みについては当初、現場から否定的な意見も挙がりました。しかし、実際に行ってみると地図の有無で活動に大きな差が生まれました」(鈴木氏)

台車の自動運転にも取り組んでいる。自動運転ロボットが工場内を縦横無尽に動き回り、台車を運ぶシステムだ。このロボットの核となるソフトウエアについては、設定を外部に依頼しているとスピード感に欠けることから、内製しているという。