森林研究・整備機構 森林総合研究所(森林総研)は大規模データベースを用いてスギとヒノキのさまざまな生理的能力を確認したと発表した。

同成果は、大曽根陽子氏(元立地環境研究領域PD)、橋本昌司氏(立地環境研究領域)、田中憲蔵氏(国際農林水産業研究センター林業領域)らの研究チームによるもの。詳細は、国際科学雑誌「PLOS ONE」に掲載された。

同研究は、国内に存在する人工林の大部分を占めるスギとヒノキの生理的特性を把握することで、その成長予測や気候変動応答を解明しようとしたものだ。

これまでスギは湿潤環境で生育が早く、ヒノキの場合は乾燥環境でもある程度生育可能であると経験的に考えられていた。

これはスギとヒノキの光合成などの生理的能力の違いに起因したものであるが、個別の研究成果ではデータ数が限られているうえ、苗木段階のデータが偏っているため、苗木から成木までの生理的能力を網羅的に解明するには限度があった。

そこで本研究では、過去70年間に発表された文献から作成した大規模データを用いてスギとヒノキの生理的能力に関するさまざまな特性を比較した。大規模データは、日本全国と台湾や朝鮮半島などで得られたスギおよびヒノキに関する文献を網羅的に収集し、光合成や材密度、葉の形質など177の特性についてデータベース化したものである。

研究の結果、成長の早いスギは、強い日差しを効率よく受け止めるための葉の配置をしていることや材密度が低いことが明らかとなった。また、スギは蒸散能力が高く、水消費が大きい樹種であることも示された。

ヒノキの場合は葉や木部において乾燥耐性があることが示され、湿潤環境で生育が早いスギと乾燥環境にも耐えうるヒノキ、両種ともに経験的な知見と一致する結果となった。

さらに、両種における葉面積あたりの光合成能力には差がみられず、成長にともなって葉の乾燥耐性が上昇するものの、葉の養分濃度や光合成が低下し、生育が制限されることも明らかとなった。

次に、スギ・ヒノキが属するヒノキ科樹種の中で両種の乾燥耐性能力を比較すると、世界的に中程度であることが分かった。これらは、日本の気候が比較的湿潤であることが関係していると考えられる。

今後、気候変動による降水量減少によって、極度の干ばつが頻繁に発生した場合には、スギ・ヒノキの成長低下や、さらには枯死する危険性が高いことを意味する。

以上、同研究で確認されたことをまとめると、スギの葉は立体的で強い光を効率よく受け止めるのに適しているが、ヒノキの葉は平面的で、スギとヒノキの光合成能力はほぼ同じだが(下記図A)、スギの方が光獲得効率が高く、材密度も低いため成長が早い(同図B、C)。また蒸散能力や水輸送能力はスギの方が高く水消費型であるが(同図D)、ヒノキの方は乾燥した土壌からでも水を吸い上げる能力が高く、葉と木部の乾燥耐性も高い(同図E)となっている。

  • スギとヒノキの能力概略図

    スギとヒノキの能力概略図。両種は同じヒノキ科に属する針葉樹だが、葉の形が大きく異なり、生理的な特性にも差がみられる(出典:森林研究・整備機構 森林総合研究所)

今回得られたスギとヒノキの定量的な生理的能力は、人工林の気候変動影響の精緻な予測や、気候変動に強い森林づくりに役立つとしている。

文中注釈

※データの収録数はスギが16400点、ヒノキが8300点を超え、樹種あたりの収録数としては、世界の同様のデータベースと比較しても最大規模だという。データベースはEcologial Research Data Paper Archivesから公開されている。