日立製作所(日立)は2月15日、シニア層に対して、データに基づく介護リスクの予測や介護予防のための行動介入を支援する新事業を立ち上げると発表した。スマートフォンアプリを通じて外出・行動状況の測定・見える化やそのデータに基づいた健康アドバイスを行い、シニアの社会参加を促進する。
近年、少子高齢化に伴い介護費用は年々増大している。厚生労働省によると2020年度の介護保険給付費用は10兆円を超え、20年間で3倍以上に膨らんでいるという。同日開催された記者発表会で、日立 金融ビジネスユニット 金融第二システム事業部技師の鎌田裕司氏は「介護保険給付費用は2020年度がピークではなく今後ますます加速していく可能性がある。持続可能な社会保障ではなくなってきている」と危機感を示した。
一方で、日本老年学的評価研究機構(JAGES機構)の20年にわたる調査結果によると「外出する」「地域や趣味の集まりに参加する」「友人に会う」といった生活の中で他者と交流する行動(社会参加)が活発であるほど、要介護認定の割合が低いということが分かった。
例えば、歩く人が多い町は認知症リスク者が少ない傾向にあったり、65歳以上の高齢者において趣味がゴルフ・旅行である人は、特に趣味がない人と比べて認知症発症が約20~25%リスクが減少したりといった結果が出ている。
JAGES機構代表理事の近藤克則氏は「社会参加や歩行量などの増加で、介護給付費は抑制できる。また、収集したデータで社会参加や歩行量などを把握でき、社会保障費用の抑制額の推計ができる可能性は高い」と述べた。
日立はこの調査結果に着目。同社は、医療ビッグデータから将来の入院発生リスクを予測するサービスの開発しており、介護リスクや行動介入による介護予防効果をデジタルに評価・分析できる仕組みの検討を、JAGES機構と共同で進めてきた。
新事業の第一弾として、2022年4月から提供を開始する予定のスマートフォンアプリ「社会参加のすゝめ」では、スマートフォンの位置情報や歩数などのデータを用いて、疑似的に社会参加状態を計測する。JAGES機構の先行研究の論文を一般のシニアにも分かりやすい内容に要約したコラムも配信。
事業化に先立ち、同社は2020年に実証実験を実施。スマートフォンを持つ約90名のシニアを対象に、4カ月間データを計測しつつ社会参加を促す情報提供を行ったところ、一定の割合で社会参加行動が活発化したことが確認できたという。
同社は早期に利用者100万人を目指し、今後は、サービス開発事業者へのデータ提供やシステム構築支援などのビジネスの開拓を狙う。例えば保険会社と連携して、社会参加の状態が活発で介護リスクが低いと認められる場合に、保険料の割引や他サービスの特典を付与するような優遇が得られる仕組みの開発につなげる。
ほかにも、交通事業者や小売事業者などと連携し、シニアの積極的な外出を推奨するイベントの開催や、自治体の介護予防施策の効果を社会参加の側面から定量的に測定するなど、さまざまな業界との連携を図っていく方針だ。