凍てつく寒さから逃れるようにやってくる花粉の季節。花粉症を患っている人にとっては春情などを楽しむ余裕はなく、ただティッシュと目薬の残量だけが気になってしまうのではないだろうか。
1950年以前、日本では花粉症は稀な疾患と考えられていた。しかし、1960年以降、種々の花粉による花粉症が発見されさまざまな方面から研究が進み現在に至る。
花粉の代表格であるスギ人工林は、約448万haで日本の森林面積の約2割を占めている。さすがに多いのでは? と感じる人もいるだろう。スギ花粉症の有病率が国民の3割程度と推計されているなか、これほどまでにスギを植える必要があっただろうか。
木材供給、国土の保全、水源の涵養、地球温暖化防止など地球規模で重要な役割を果たす森林だが、こと花粉の季節になると目や鼻のかゆみ、止まらない鼻水など”わたし規模”で大災害がおきる。
そういった方達に向けて、ぜひとも「花粉症の症状を軽減させる驚きの方法」などのタイトルで記事を執筆したいが、専門分野が違うのと私自身花粉症ではない身である。そのため違う視点で花粉に関連した内容をお届けしたいと思う。
というわけで、今回は日本にスギ・ヒノキが多く植えられている理由と国が行っている花粉対策について紹介する。
日本にスギ・ヒノキが多い理由
日本にスギやヒノキなどの針葉樹が多く植林された背景には、日中戦争や太平洋戦争などによって大量の木材が軍需物資として使われたという事情がある。また戦争被害復興やその後の高度経済成長などによって多くの木造住宅が建築されることで、爆発的に木材需要が高まり、日本の山から大量の木が伐採された。
それによって森林が荒廃し、全国ではげ山が広まり、台風などの自然災害によって各地で甚大な被害をもたらしたのだ。
こうした中、終戦の翌年1946年には、造林補助事業が治山事業や林道事業とともに公共事業に組み込まれ、造林未済地の解消を主眼として積極的に推進された。1950年に制定された「造林臨時措置法」も追い風となり、政府の支援を受けながら山林経営者は植林事業に躍起になった。
その時、大規模に植林されたのがスギとヒノキというわけだ。
ではなぜ広葉樹ではなく針葉樹なのか。林野庁Webサイトの「森林・林業とスギ・ヒノキ花粉に関するQ&A」によると、スギは日本固有の樹種で、根を深く張り、土壌が深く肥沃な土地で良く成長する。また、材も軽くて柔らかく、通直に育つことから加工性にも優れているという理由が挙げられている。
しかし、いくらなんでも十把一絡げに針葉樹を植えるのではなく、地域の気候特性に合った樹種を植えた方が良い気がする。また、戦後造林した人工林は現在伐期(林木を伐採して収穫する時期)を迎えているが、その用途は確立されていない。政府は木材利用を推進しているが、そもそも国内のスギ生産は採算が取れなくなっており、林業衰退に歯止めがきかないのが現状だ。
国が行う花粉対策
花粉症による問題が顕在化してきたことから、林野庁では平成3年に少花粉スギの開発に着手し、現在までに少花粉スギ142品種、無花粉スギ3品種が開発されている。
また、花粉発生対策として「3本の斧」を掲げている。花粉症対策に資する苗木生産を加速化させ2032年までにスギ苗木の年間生産量に占める割合を、約7割にまで増加させるとしている。3本の斧は具体的に以下の内容となっている。
最後に富山県で行っている無花粉スギの事例を紹介しよう。
富山県では1993年に全国で初めて花粉をまったく飛散させない無花粉スギを発見した。その後、20年で実用化に成功している。2007年に「はるよこい」、2010年に「立山 森の輝き」を開発し、「立山 森の輝き」は2019年までに約20万本が県内の再造林地に植栽された。
そして富山県では独自の取り組みとして、再造林に優良無花粉スギである「立山 森の輝き」を使用する山林保有者を対象に、苗木代や地拵え(じごしらえ)、下刈りなどの初期費用を全額補助する支援制度を進めている(参考:森林遺伝育種 第10巻 80-83)。
花粉の季節が近づいていることもあり、今回は日本にスギ・ヒノキが多い理由や国が行っている花粉対策、そして、具体的な花粉対策が行われている富山県の事例を紹介した。
兎にも角にも、国産針葉樹を積極的に利用していくことが重要だ。木材が使われやすいよう、建築基準法でも緩和措置が取られるなど木材を取り巻く環境が変化してきている。その潮流に乗っかり無花粉スギの造林が全国で進んでいくことを期待したい。