東京大学(東大)は2月4日、異なる3方向から見たときの光の透過具合、吸収係数が40%以上変化する反強磁性体を発見したと発表した。
同成果は、東大大学院 新領域創成科学研究科の木村健太助教、同・木村剛教授らの研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。
時間反転と空間反転のどちらも対称でない磁性体において、光の進む向きを反転させると、通常の物質なら変化しない光の吸収係数が変化する「方向二色性」という現象が現れることが知られており、その観測例はこれまで、マクロな磁化を持つ磁性体が中心であったものの、ある種の結晶構造のもとでは、マクロな磁化を持たない反強磁性体においても発現することが観測されており、そうした方向二色性が活性な反強磁性体では、スピンの向きを反転させることで透過光強度を切り替えることが可能であることが分かっている。
このことを複数の安定なスピン配列を取ることのできる反強磁性体に応用することで、反強磁性体を使った透過光強度の多段階制御の実現が期待されるものの、これまでに方向二色性が観測された反強磁性体は2種類の配列を取るもののみであり、その方向二色性も小さいものがほとんどだったという。
そこで研究チームは今回、複数の安定なスピン配列を取り得る反強磁性体として、正方晶の結晶構造を持つビスマスと銅の酸化物「Bi2CuO4」に着目し、研究を行ったという。
同物質は銅イオンのスピンが反平行に配列しており、それらが正方晶の面内方向を向くことを反映し、互いに90度の角度を成す4種類の安定なスピン配列を取ることが期待されることから、単結晶を用いて、正方晶の面内方向に可視光を入射したときの透過光の詳細な様子の調査が行われた。
その結果、スピンと垂直な方向に進む光において、スピンあるいは光の進行方向の反転により吸収係数が40%以上変化するという方向二色性が観測されたほか、光の進む向きがスピンと平行な場合では方向二色性が消失するということも確認したという。
この結果は、光の進む向きがスピンに対して平行か垂直かによって、吸収係数が3つの異なる値を取るということを表すという。また、スピンが規則的に配列していない常磁性状態では、正方晶の面内方向のどの方向に光を入射しても吸収係数は同じであることから、反強磁性によって三色性が誘起されたということを意味しており、結晶構造の異方性に起因して現れる従来の三色性とは異なるユニークな光学現象だとする。
また、この現象を利用する形で電場と磁場の印加により4種類のスピン配列を制御し、スピン配列と光の進む向きの相対的な配置を変化させることで、吸収係数を3段階に切り替えられることも確認したという。
なお、研究チームでは、この三色性は、反強磁性体における複数の安定なスピン配列を光によって識別することを可能にするため、反強磁性体を使った多値メモリの光読み出しに利用できる可能性があるとしているほか、今後、今回の成果を踏まえ、三色性をキーワードとした反強磁性体の機能開拓やさらなる巨大応答が実現されることで、反強磁性体を使った新奇な磁気光学素子や多値メモリといった応用への展開が期待されるとしている。