名古屋工業大学(名工大)、高輝度光科学研究センター(JASRI)、広島市立大学(広島市大)の3者は2月4日、バリウムとチタンの酸化物「BaTiO3」をベースとした鉛フリーの圧電材料を調査したところ、添加されたカルシウム原子が大きく変位していることを確認し、この変化が材料の持つ圧電特性の源になっている可能性を確認したと発表した。
同成果は、名工大大学院 工学研究科の木村耕治助教、同・林好一教授、同・柿本健一教授、同・物理工学専攻の山本裕太大学院生、同・工学専攻物理工学系プログラムの川村啓介大学院生、同・生命・応用化学専攻の杉本陽菜大学院生(研究当時)、独・エアランゲン=ニュルンベルク大学のカイル・G・ウェバー教授、同・アーメド・ガデルマウラ大学院生、JASRIの田尻寛男主幹研究員、広島市大大学院 情報科学研究科の八方直久准教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、応用物理学を扱う学術誌「Applied Physics Letters」に掲載された。
原子番号82の鉛(Pb)は、人体に多量に取り込むと有害であることから、世界的な工業製品での鉛フリー化が進められているが、一部では性能的に鉛入りのものと同等にならず、代替が難しいとされているものもある。センサ、アクチュエータ、インクジェットプリンタ、精密モータなど、さまざまな用途で用いられている圧電材料もその1つで、鉛フリー圧電材料の高性能化が求められている。
近年、従来の「チタン酸ジルコン酸鉛」(PZT)に代替できる鉛フリー圧電材料として有望視されているのが、バリウム(Ba)、カルシウム(Ca)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、酸素(O)からなる化合物「(Ba,Ca)(Zr,Ti)O3」(BCZT)で、100℃以下の比較的低い温度領域ではPZTを上回る圧電特性を示すことなども知られている。しかし、BCZTが、どうして大きな圧電特性を有するのか、といったことは良く分かっていなかったという。
圧電現象は、正負に帯電した原子が元の位置からずれることで生じる「分極」が起源となっており、PZTの場合は、正に帯電したPb原子の位置のずれが大きな圧電特性の起源とされていることから、BCZTにおいても、Pbのように大きく変位する元素が含まれている可能性があると考えられることから、研究チームは今回、BCZTを構成する元素の中でも、ほかの元素に比べてサイズが小さく、周囲に隙間があっても動きやすいと考えられるCaに着目して調査を行ったという。
具体的には、Caのみを添加した「(Ba0.9Ca0.1)TiO3」の分析を大型放射光施設SPring-8の蛍光X線ホログラフィで実施。その結果、Caの周囲の原子像が伸びていたのに対し、Baの周囲の原子像にはそのような伸びはないことを確認。そのCa原子の変位は、0.36Åほどであることも判明した。
この0.36Åという値は、これまで報告されているPZTにおけるPbの変位量とおおよそ一致するという。そのため研究チームでは、BCZTのCa原子は、PZTにおけるPbの役割に相当する効果を生み出していることが示唆されたとしている。
今回の研究成果を踏まえ研究チームでは、Pbの役割をCaに担わせることができれば、環境や人体に優しい圧電材料の開発につなげることが可能となるとするほか、BCZTではCa原子のサイズが小さいことがポイントとなっていたことから、このアイデアに基づいた新しい元素の組み合わせが見つかる可能性があるとしており、それにより鉛フリー圧電材料の探索と創生が加速することが期待されるとしている。
なお研究チームは今後は、BCZTを構成するCa以外の元素についても、蛍光X線ホログラフィを用いた解析を進めるとするほか、電圧を印加した状態で原子の変位を観測する「その場測定」についての技術開発を進め、さまざまな圧電材料の性能発現メカニズムのさらなる詳細な解明を目指したいとしている。