新型コロナウイルスのオミクロン株のまん延に伴う「第6波」の感染拡大が続いている。その増加ペースと軌を一にするように搬送先がなかなか決まらない「救急搬送困難」なケースが急増していることが大東文化大学スポーツ・健康科学部の中島一敏教授の分析で分かった。分析結果は2日開かれた、厚生労働省に感染防止対策を助言する専門家組織会合に報告された。
総務省消防庁のまとめによると、救急搬送困難ケースは1月24~30日の1週間に全国52の消防局・消防本部で計5303件あり、昨年8月中旬の「第5波」のさなかに記録された最多の1週間3361件を大きく上回っている。消防庁は、救急隊到着から搬送開始まで30分以上かかり、医療機関に受け入れ可否を4回以上照会した場合を「救急搬送困難事案」と定義。比較的規模の大きい全国52の消防局・消防本部を対象に1週間ごとに集計している。全国の実数はさらに多く、病床逼迫(ひっぱく)の度合いが高まると件数が増える傾向にある。
搬送困難ケースの件数は1月に入ってから増加しはじめた。10~16日が4151件で、この時点で第5波だった昨夏を上回り過去最多となった。その次の週の17~23日は4950件。そして1月下旬の週に5000件を突破してしまった。
1月24~30日の5303件のうち、コロナ疑い例は前週比29%増の1833件で、非コロナ疑い例は同2%減の3470件。地域別にみると最多は東京消防庁の2668件で、前週比1%の微増だが、うちコロナ疑い例は22%増の806件だった。大阪市消防局は全体で同28%増の527件で、コロナ疑いは43%増の205件だった。
中島教授はこの搬送困難ケースの件数と新型コロナウイルス感染症の感染者数を照合、分析した。すると、オミクロン株のまん延が影響しているとみられる感染者数の増加ペースと搬送困難件数の増加ペースが軌を一にしている傾向がはっきりした。さらに、コロナ疑い例と非コロナ疑い例の比率を調べると、第6波の搬送困難ケースは当初は非コロナ疑い例が中心だったが、徐々にコロナ疑い例が増加し、全体で第5波のピークを超えたことが分かったという。
冬の時期は毎年寒さが誘因となって心疾患などの急病が増加し、積雪に伴う事故なども増える傾向にあり、救急搬送要請が増える。オミクロン株がまん延して全国的に感染が急拡大したことに加え、医療機関がコロナ患者用の病床を増やして一般病床が圧迫されたことなどが搬送困難ケースの増加につながったとみられている。
2月に入って「救急措置までの時間が勝負」の重篤な循環器病疾患なのに、50以上の病院に受け入れ要請をして長時間を経てやっと入院できた事例なども明らかになっている。
2日の専門家組織会合は「全国で(感染者)増加速度は鈍化しつつも感染拡大が継続すると考えられる」との見解を出した。搬送困難ケースでも重症の場合は最終的に搬送先が見つかる場合が多いが、今後も感染者数が増え続けると病床逼迫が進み、第5波の時に見られたように適切に搬送されずに「救える命が救えない」事例が多発する恐れもある。
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