米国連邦議会下院は2月4日(米国時間)、米国の競争力強化を目指し国内産業界を支援する包括法案であり、米国半導体製造を強化するための520億ドル(約6兆円)の政府出資を含む「米国競争法案(The America COMPETES Act of 2022)」を賛成222、反対210という僅差で可決した。与党である共和党議員が1人を除き賛成したのに対して、野党である共和党議員が1人を除き全員が反対票を投じたためこのような僅差となった。
今回可決された法案の骨子は、以下の通り。
- CHIPS for Americaファンドとして米国の半導体製造を支援するために5年間で520億ドル(約6兆円)の支出
- 米国のサプライチェーンを改善するための450億ドルの支出
- 自動車、家電製品、防衛システムの生産における重要なコンポーネントをサポートするための20億ドルの支出 ただし、2900ページを超えるこの法案には、多数の通商条項も含まれ、少数民族ウグル族の扱いを巡り中国に追加制裁を科す内容や、条件を満たす香港市民に難民認定を付与する案なども盛り込まれている。これに対して、在ワシントン中国大使館は、この法律は中国を仮想敵国とみなして中国の内政へ重大な干渉をおこなうものだとして非難している。
不透明な法案成立時期
今回下院で可決された法案はこのまま成立するわけではなく、成立までには再び上下両院での手続きを経なければならない。上院はすでに2021年6月に類似の「米国イノベーション・競争法案(United States Innovation and Competition Act of 2021 (USICA)」を超党派で可決しているが、上下院で可決された法案は内容がやや異なるため、議会事務局が今後、上下両院で可決された法案を擦り合わせて調整し、一本化した修正法案を上下院が再可決したうえで、バイデン大統領が署名して成立する運びになっている。しかし、野党・共和党が法案の一部の内容に強く反発しており、調整作業の難航や議事妨害などが予想され、法案成立は見通せていない。調整作業に少なくとも数か月を要すると議会関係者は見ている。
米国競争法案が下院で可決されたのを受けて、バイデン米大統領は2月4日(米国時間)付で声明を発表し、中国などとの21世紀の競争を勝ち抜くための重要な進展だと法案可決を称賛し、早期の法案成立を再び訴えた。米国商務省のレモンド長官も、連邦議会上下両院の調整交渉を今後数か月も長引かせるべきではないとして、合意に向けた連邦議会の迅速な対応を求めた。
半導体製造装置・材料メーカーにも補助金
下院で可決された法案には半導体製造装置メーカーおよび材料メーカーが連邦助成金プログラムを利用できるようにする条項が含まれている。SEMIのプレジデント兼CEOを務めるAjit Manocha氏は、この助成金によって、米国の半導体サプライチェーンを強化し、半導体製造工場だけではなく、上流の装置ならびに材料の製造施設をも新たに誘致することができると述べている。米商務省は、日本の強みである装置・材料メーカーの米国進出を要請しているとも伝えられている。
SIAやSEMIなどの業界団体やIntelはじめ半導体関連企業はワシントンで法案可決を促進するためのロビー活動を長期にわたり行ってきたが、今後最終的に法案成立まで活動をさらに強化する見込みである。
TSMCやSamsung Electronicsといった海外勢、そしてIntelを中心とする米国勢ともに最先端半導体工場の建設にあたり、米国政府からの補助金を期待しているが、総額6兆円を5年にわたって、米国内の多数の半導体関連企業に分配するため、一企業当たりの分配額は、日本政府がTSMC熊本工場に支給しようとしている数千億円という規模の補助金よりも少なくなる可能性がある。
なお、米GlobalFoundreisは、ニューヨーク州にある同社にとっての最新工場であるFab8の隣接地に1兆円近くを投じてFab8.2を増設することにしているが、米国政府による補助金支給のめどが立たないとして、増設計画の発表を延期している。