東京工業大学(東工大)、理化学研究所(理研)、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の3者は2月3日、多様な金属硫化物を用いた電解還元による二酸化炭素(CO2)変換結果に対して重回帰分析を行い、金属硫化物を利用した触媒設計における新たな指針を見出したと発表した。

同成果は、東工大 物質理工学院 材料系の山口晃助教(理研 環境資源科学研究センター(CSRS) 客員研究員兼任)、同・新井勝樹大学院生(研究当時)、理研 CSRSの中村龍平チームリーダー(東工大教授兼任)、同・ジウン・リー研究員、JAMSTECの北台紀夫副主任研究員らの研究チームによるもの。詳細は、ナノ・低次元・バルク材料の物理化学を扱う学術誌「The Journal of Physical Chemistry C」に掲載された。

カーボンニュートラル社会の実現に向けた大気中のCO2の回収や活用する技術開発が求められている。資源として有効利用するための手法の1つとして、再生可能エネルギーなどで発電した電力を用いて、CO2を原料に有用な化学物質を作り出す電気化学的なCO2の電解還元が考えられているが、これまで100年以上にわたって研究が進められてきたものの、いまだ発展途上であり、その進歩のためには新たな電極材料群の開発が必要とされている。

電解還元によるCO2変換を行おうとする際、電極に銅などの単一元素からなる金属を用いると、各反応過程を最適化する際に、スケーリング則によって触媒設計の自由度が制限されるという課題があり、それを解決できる材料軍として、スケーリング則による制約を解決し得る材料群として、複数の反応サイトを有する金属硫化物が検討されている。しかし、金属硫化物がCO2還元に活性を有したという報告はあるものの、有効なCO2還元電極としてこれまで明確な設計指針は得られていなかったという。

そこで研究チームは今回、金属硫化物上におけるCO2還元では、どのような物性パラメータが活性を決めているのかを、実験および計算科学の手法を用いて明らかにし、電極設計の指針とすることを試みたという。

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    今回の研究で行われた、実験および計算科学を用いた活性寄与パラメータ抽出の流れ (出所:プレスリリースPDF)

検討対象として14種類の金属硫化物を合成し、それぞれの金属硫化物について電気化学的なCO2還元活性の調査として、COを生成する場合とギ酸を生成する場合の部分電流密度が測定されたほか、金属硫化物上におけるCO2還元の活性を決めるパラメータの解明を目的に重回帰分析も実施。その結果、CO2をCOへと還元する反応においては、金属硫化物の結合長をはじめとする構造的なパラメータが寄与していることが判明したほか、CO2をギ酸へと還元する反応では、金属の電気陰性度などの電子的な影響が活性を決めているという結果が得られたとする。

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    14種類の金属硫化物を電極として用いてCO2還元が行われる場合の、各金属硫化物のCOが生成される際の活性(左)と、ギ酸(HCOOH)が生成される際の活性(右) (出所:プレスリリースPDF)

また同様の手法を、古くからCO2還元電極として研究が進められている銅、銀などの金属電極によるCO2還元の結果に対しても適用したところ、それらの金属電極の場合ではCO生成の場合でもギ酸生成の場合でも、ともに電子的なパラメータが活性に寄与していることが明らかになったという。この結果について研究チームでは、電解還元によるCO2変換としての金属硫化物上でのCO生成では、これまでの材料群とは異なるメカニズムで反応が進行しているということが示唆されたとしている。

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    各物性パラメータを用いて重回帰分析が行われた際の、各パラメータの活性への寄与の大きさ。CO生成(左)とギ酸生成(右)による結果。グラフ内にある線のうち、赤は主成分分析が、青はラッソ回帰がそれぞれ行われた結果が示されている (出所:プレスリリースPDF)

なお、今回モデルとして検討が行われた金属硫化物は、実用化を考えた場合にはまだ高い活性を持つとはいい難いものの、電解還元によるCO2変換材料の設計に資する明確な指針を提示するものだと研究チームでは説明しており、今後、今回得られた指針を基に材料設計、ならびに探索を行うことで、金属硫化物という身近で新たな材料群をベースとしたCO2資源化材料の開発につながることが期待されるとしている。