英Secondmindは2月3日、オンラインでマツダがエンジンキャリブレーションの効率向上と複雑化するパワートレインの設計・開発に対応していくため、パワートレイン用機械学習プラットフォームの複数年ライセンス契約を締結したことを発表した。
Secondmindは2016年に創業し、イギリス・ケンブリッジに本社を構え、従業員数は50人、日本法人は2020年12月に設立しており、横浜に本社を置いている。創業から5年以上、実践的な機械学習の研究開発に携わり、機械学習に関する専門紙や学会で70本以上の論文を発表している。
マツダが採用したパワートレイン用機械学習プラットフォーム
エンジンキャリブレーションとは、燃費やトルクなどエンジンを制御する入力パラメータを最適化すること。
日本法人のSecondmind 代表執行役である井上友宏氏は、同社のSecondmindのパワートレイン用機械学習プラットフォームについて「測定データから自動的にモデルを生成し、最適化計算を行うクラウドベースのソフトウェアプラットフォームだ」と説明する。
今回、両社は2年前から開始したハイブリッドおよびEV(電気自動車)のパワートレイン制御システムや、CASE(Connectivity、Autonomous、Shared、Electrified)など、先進制御系開発の領域を対象に共同研究開発を継続していく。
マツダは、次世代のSKYACTIVエンジンを制御するECU(Electronic Control Unit:自動車に搭載される電子制御部品)のキャリブレーション工程にSecondmindを採用。Secondmindの機械学習を活用することで、従来のエンジンキャリブレーション工程の効率を2倍以上に高める効果が期待できるという。
井上氏は「制御システムが複雑であるほど、当社の機械学習の導入効果は高い。エンジン制御は自動車の制御開発の中で最も難しい数学問題といわれており、当社のプラットフォームで工数がかかるモデルベースキャリブレーションを効率化する」と力を込める。
同社のプラットフォームはの主な特徴は、最大50種類のパラメータと制約条件をサポートし、1つのデータを取り込むごとに学習することで、高精度なキャリブレーションを行うために必要となる実験計画を動的に更新する。また、データには含まれない専門知識をエンジニアが機械学習に指示することを可能とし、すべての計算結果に正確な信頼度属性を提供する。
さらに、既存のキャリブレーションシステムやテストシステムとのインテグレーションが容易なほか、内燃エンジンに加え、ハイブリッド、EV(電気自動車)など、幅広いパワートレインに対応できるように設計している。
従来の機械学習の課題を解決するSecondmindの機械学習
英Secondmind CEOのガリー・ブロートマン(Gary Brotman)氏は「カーボンニュートラルやCASE、新たな顧客ニーズなどの要件対応のため、自動車のモデルベース開発は複雑化し、制御パラメータは指数関数的に増加しており、実機ベースでの開発は困難となっている。また、モデルベース開発で効率化を図ろうと試みるが、モデリングのためのデータ測定・分析の工数が増大している」との認識を示す。
従来の実験計画法(DoE)では、最適条件検出までの測定点が多く時間を要していたが、同社の機械学習は少ない測定点で最適条件を検出するため、結果として従来方法より短時間かつ、少ないデータでも高精度なキャリブレーションを可能としている。
井上氏は「シンプルなAPI連携を可能とし、あらゆるそーつからデータの取り込みができ、MATLABや他ツールで結果をグラフ化することも可能だ。これにより、キャリブレーション工程を簡素化するほか、既存システムとの統合を容易にしている」と、強調する。
従来のモデルベースキャリブレーションと比較して、パワートレイン向けの同社製ソリューションは、自動車メーカーのエンジンのキャリブレーション時間を最大50%短縮し、データの取得と処理コストを最大80%の削減、プロトタイプ台数を最大40%の削減を可能としている。
今後、Secondmindでは製品開発はイギリスで行い、日本では営業、技術サポートを手がける方針としており、自動車会社に加え、ティア1サプライヤーやテストベンチ・機器メーカー、ソフトウェア会社、技術コンサルティング会社など、日本の自動車業界へアプローチしていく考えだ。