アクセンチュアは2月1日、最新のデジタル技術を医療やヘルスケアサービスなどに活用する「デジタルヘルス」をテーマにした記者向け説明会を開催した。

説明会では、同社が実施した「ヘルスケアに対する意識・行動に関するグローバル調査」の結果を基に、日本におけるデジタルヘルスサービスの利用動向や将来の活用においての課題・方向性が解説された。

  • 「ヘルスケアに対する意識・行動に関するグローバル調査」の概要、出所:アクセンチュア

「デバイスの質・価格」を重視するミレニアル世代

はじめに、ビジネスコンサルティング本部ストラテジーグループマネジング・ディレクターの藤井篤之氏が、「ヘルスケアに対する意識・行動に関するグローバル調査」の調査結果について解説した。

  • アクセンチュア ビジネスコンサルティング本部ストラテジーグループマネジング・ディレクター 藤井篤之氏

藤井氏によれば、「日本ではデジタルヘルスの利用が進んでいない」という。同調査では、過去1年以内にデジタル技術を利用した人の割合がグローバル平均では60%だったところ、日本は37%だった。過去1年以内に利用されたデジタル技術の内訳を見ると、特にオンライン診療・電子健康記録・ウェアラブル技術の3分野でグローバル平均と差があった。また、デジタルヘルスの利用移行と利用経験については、日本は利用意向が14カ国中最下位であり、利用経験においても他国と比較して低かった。

  • 他国と比べて日本ではデジタルヘルスの利用が浸透していない、出所:アクセンチュア

  • デジタルヘルスの利用意向も低い日本、出所:アクセンチュア

世代別のデジタルヘルスの利用移行と利用経験について藤井氏は、「ミレニアル世代を境に、デジタル利用経験について明確な傾向差があり、ミレニアル世代以下(18歳~41歳)は利用経験のある人が多く、ミレニアル世代より上(42歳以上)は利用経験が少ない。また、ミレニアル世代以下では、利用意向はあるが実際の利用に至っておらず利用促進が課題となる。一方、ミレニアル世代より上では、利用意向の低さが利用経験の低さにつながっており、利用意向の喚起が課題だ」と指摘した。

このほか、「健康管理にデジタル技術を使う上で重視する要素」についての設問からは、データの安全性やプライバシーへの信頼度、医療機関からのアドバイスは世代を問わず重視する傾向にあることがわかった。世代別に見ると、ミレニアル世代以下は「デバイスの質と価格」を、ミレニアル世代より上の世代は「健康に関するより良い情報」を重視する傾向にあった。

「日本でデジタルヘルスの利用を促すためには、ミレニアル世代以下には質が高く、価格面でも魅力のあるデバイス・サービスが各企業から提供されることが求められる。ミレニアル世代より上の世代においては、自身の健康に関するより良い情報を得られることの理解促進が重要となる」(藤井氏)

  • ミレニアム世代以下は、デジタル技術活用でデバイスの質・価格を重視、出所:アクセンチュア

デジタルヘルスの普及にあたって、課題となるのがデータセキュリティへの信頼の醸成と、AI活用に対する不安の払しょくだ。日本では、第三者が個人のヘルスケアデータを安全に管理することに対する信頼度がグローバル平均に比べて全般的に低い。また、診断支援やカルテ記載補助など、医療現場におけるAI活用に対する不安が日本は他国に比べて高い。

  • ヘルスケアデータの預け先への信頼度が低い日本、出所:アクセンチュア

「受診・診療の支援」と「慢性疾患の遠隔モニタリング」にデジタルの活用余地

調査結果を踏まえて、日本におけるデジタルヘルス進展の課題と方向性については、 執行役員 ビジネスコンサルティング本部 ストラテジーグループ日本統括兼 ライフサイエンスプラクティス日本統括の石川雅崇氏が説明した。

  • アクセンチュア 執行役員 ビジネスコンサルティング本部 ストラテジーグループ日本統括兼 ライフサイエンスプラクティス日本統括 石川雅崇氏

石川氏はまず、デジタルヘルスの普及が遅れている日本の現状を振り返った。日本の医療制度は、患者が受信先の医療機関を自由に選択・変更可能なフリーアクセス型であり、何かあった時にすぐに医療機関を受診することができる。石川氏は、「医療機関へのアクセス性の高さが、患者がデジタルヘルスを利用する動機を下げる一因となっているのではないか」と分析する。

日本ではMRIやCTなどを使用した検査の件数が高い傾向にある。年間1人当たりの医療機関の受診回数はOECD(経済協力開発機構)加盟国の平均が6.8回なのに対して、日本は12.6回だ。それにも関わらず、患者情報や診療情報のデータ化は進んでいない。電子カルテの普及率は海外に比べて低い。また、データ連携も海外に比べて遅れている。

例えば、RWD(Real World Data、日常の実臨床の中で得られる医療データ)を用いた医薬品開発における臨床試験数は米国と比較して開く一方だ。日本では特定健診と薬剤情報のみデータ連携ができているが、シンガポールでは全ての公立病院で、診断・検査結果、薬歴、処置内容、退院記録などが連携されている。

そのうえで石川氏は、日本においてデジタルヘルスが普及する余地がある領域について「在宅でのデジタル受診相談/診療支援による受診効率化」と「慢性疾患の個別管理・行動変容による重症化予防」を挙げる。

  • アクセンチュアは2つの領域にデジタル化の余地を見出す、出所:アクセンチュア

日本では現状、高度な専門治療を行うことが目的である特定機能病院に、受診先の分からない患者が集まってしまい、患者1人あたりの受診数が多いために医師の業務過多が生じているという。AIによるデジタル受診相談・診療支援を利用することで、患者の予約待ち時間の短縮や医師の診療負担の軽減などが期待できる。

英Babylonの提供するサービスでは、医療機関を受診する前に患者の健康状態からAIが受診相談、診療支援を実施することで、医療機関の受診者数を60%に抑制し、患者の予約待ち時間の短縮、医師の診療負担軽減に寄与したという。

  • 「在宅でのデジタル受診相談/診療支援による受診効率化」の事例、出所:アクセンチュア

慢性疾患の治療においては、対面だけでなく遠隔モニタリングで得られる実臨床データを活用することで治療の精度向上や患者の行動変容に繋がったという研究結果が挙がってきており、データを活用した医療の質向上という面でデジタル技術の活用余地が大きい。

実際にスイスのRocheでは、医療用ウェアラブルデバイスを活用したモニタリングや医療者とのデータ共有により、慢性疾患における治療の個別化や患者の行動変容による重症化予防を実現しているという。

  • 「慢性疾患の個別管理・行動変容による重症化予防」の事例、出所:アクセンチュア

日本の先進事例としては、会津若松市の取り組みが紹介された。同市ではPHR(パーソナルヘルスレコード)を包括的に利用できるデータ基盤を構築し、分散しているデータの統合に向けて、AIやデジタル技術活用を進めている。

最後に石川氏は、「日々のヘルスケアデータや低コスト化した検査サービスから自動的に疾病リスクが検知され、適切な専門医療サービスに患者が早期に案内される、新たな日本型デジタル医療制度が日本の目指すべき将来像だろう。実現のためにはセキュリティの問題解決はもちろん、データを次の医療にどう繋げるかが問われる」と語った。