東京大学(東大)は1月30日、国産ゲノム編集技術「CRISPR-Cas3」により、サンプル中の微量なウイルスRNAを正確に検出する「CONAN法」を開発し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の迅速な診断法として確立したと発表した。
同成果は、東大 医科学研究所(IMS) 先進動物ゲノム研究分野の吉見一人講師、同・真下知士教授を中心とした、東大 IMS ウイルス感染分野および感染症分野、理化学研究所 放射光科学研究センターの研究者らも参加した共同研究チームによるもの。詳細は、物理・地球科学・生命科学・健康科学などの幅広い分野を扱うオープンアクセスジャーナル「iScience」に掲載された。
新型コロナの感染を高速かつ簡便・高精度で診断することは、さらなる感染の拡大や重症化を防止するために重要となるが、現在の主な診断法としては、PCR検査法と抗原検査法が用いられており、医療機関などにおける確定診断のためには少ない数のウイルスでも高感度に検出できるPCR検査法が活用されている。しかし、PCR検査には専門的な技術や解析機器が必要なため臨床現場で実施することが難しく、特定の検査機関で実施する必要があるため、検査結果が出るまでに抗原検査に比べ時間を要することが課題とされている。
そうした背景を踏まえ、研究チームは今回、国産ゲノム編集技術CRISPR-Cas3によりサンプル中の微量なウイルスRNAを正確に検出する「CONAN法」を開発し、新たな新型コロナ迅速診断法として確立。新型コロナのウイルスRNAを用いた検査を行ったところ、数十個程度のサンプルでも、最短40分以内に試験紙で検出することに成功したという。
実際に、新型コロナ陽性患者10例、陰性者由来サンプル21例の鼻腔ぬぐい液サンプルを用いて診断を行ったところ、陽性一致率(PPA)は90%(9例/10例)、陰性一致率(NPA)は95.3%(20/21例)となり、高い精度で新型コロナを検出できることが確認されたとする。
今回開発されたCONAN法による迅速新型コロナ診断手法は、PCR検査法や抗原検査法と比較して以下の点が優れていると研究チームでは説明する。
- 患者由来サンプルから最短40分以内に検出することができる
- 一般的な試薬、試験紙と保温装置だけで検出できるため、野外や医療現場、空港などのPOCT検査薬として、迅速かつ低コストで簡単に診断できる
- 数十個のわずかなウイルスRNAでも高感度かつ高精度に検出することができる
- CRISPR-Cas3は1塩基の違いも検出できるため、薬剤耐性や重症化を導く変異がウイルスに生じた際にも即座に検出法を確立することができる
- どのようなDNA配列にも対応することができるため、新型コロナ以外のさまざまな感染症の遺伝子診断法として利用することができる
なお今回開発された診断法について研究チームでは、国内バイオベンチャー企業C4Uを通じてキット化し、医療現場で簡易的に使用できる新型コロナ迅速診断薬として早急に実用化することを目指すとしているほか、すでにインフルエンザのA型(H1N1pdm09、H3N2)についても同様の方法で検出に成功していることから、新しいインフルエンザ診断法としての開発も同時に進めていくとしている。