東北大学は1月28日、腸から糖を吸収する輸送体「SGLT1」を阻害することで血糖降下作用がある薬剤「SGL5213」を腎不全マウスに投与したところ、腸内細菌が作り出すことによって糖尿病性腎臓病を悪化させる「フェニル硫酸」の血中濃度が低下し、腎機能が改善することを明らかにしたと発表した。

同成果は、東北大大学院 医学系研究科/同大学院 医工学研究科の阿部高明教授らの研究チームによるもの。詳細は、基礎から臨床まで生理学全般を扱うオープンアクセスジャーナル「Physiological Reports」に掲載された。

糖尿病性腎臓病は、糖尿病患者のおよそ2~3割が発症し、日本の透析患者の発症原因として全体の約4割を占める疾患として知られており、その治療に向けた対応が求められている。

阿部教授らの研究チームは2019年、糖尿病性腎臓病に関する事実として、「腸内細菌が産生に関わるフェニル硫酸が糖尿病性腎臓病の原因物質の1つであること」、「糖尿病患者を対象にしたヒトの臨床研究の結果からフェニル硫酸は糖尿病性腎臓病増悪の予測因子であること」、「フェニル硫酸産生を抑えるとアルブミン尿と腎機能が改善すること」の3点を報告し、フェニル硫酸を低下させることが糖尿病性腎臓病の新たな治療法開発のターゲットとなり得ることを報告してきた。

また、腎臓病や糖尿病では腸内細菌叢の変化が起こり、フェニル硫酸などの毒素が蓄積することが知られており、その是正が新しい糖尿病性腎症の治療法となり得ることも示されていたほか、腸内における、いわゆる善玉菌の栄養源となる食物繊維やグルコースが増えると、善玉菌の働きが強化され腎不全が改善することも、動物実験から報告されていた。しかしその一方で、糖尿病性腎臓病においては、効果は確認されていなかったという。

腸管からのグルコース吸収はSGLT1という輸送体が担っており、小腸上皮でのグルコース吸収を担うSGLT1の阻害は、グルコースの吸収を遅らせることで、血糖降下作用と腸内細菌由来の尿毒素の血中濃度の減少効果があることが考えられることから、今回、阿部教授らの研究チームは、SGLT1阻害剤の1つであるSGL5213に着目。腎不全マウスに同薬剤を経口投与したところ、腎不全時に上昇する腸内細菌由来の尿毒素であるフェニル硫酸と動脈硬化の原因物質である「トリメチルアミン-N-オキシド」の血中濃度が低下すること、ならびに腎機能(BUN、クレアチニン)が改善することが確認されたという。

また腸内細菌叢の解析から、肥満などで増加する「ファーミキューテス菌」と「バクテロイデス菌」の比率(F/B比)が腎不全でも増加する一方、SGL5213の投与により低下することも確認されたとする。

フェニル硫酸は、その100%が食事中のアミノ酸(チロシン)から腸内細菌によって産生される代謝物で、産生酵素は腸内細菌のみが保有している。近年、糖尿病性腎症と診断された2型糖尿病患者と健常者について、糞便のメタゲノム解析によって腸内細菌叢を比較した結果、Prevotella属などに明確な差異があることが報告されており、腸内細菌叢の乱れが糖尿病に関与することが考えられるという。そのため、糖尿病患者は、食事中の肉やチーズに含まれるチロシンを減らすことにより、フェニル硫酸の産生を抑制することが可能と考えられるが、チロシンのみを料理や加工により食事から除くことは、困難であり現実的ではないことから、研究チームでは、今回の研究から、糖尿病性腎臓病患者に対しては、主にチロシンに着目した栄養指導とともに、SGL5213のような腸管でのSGLT1阻害を行うことで、糖尿病性腎症から腎不全への進展が抑えられる可能性が示唆されたとしている。

  • 糖尿病

    SGLT5213が腎不全マウスに投与されたところ、フェニル硫酸、トリメチルアミン-N-オキシドの血中濃度が低下し、腎機能(BUN、Cr)が改善した (出所:東北大プレスリリースPDF)