2022年1月19~21日に開催された「第37回インターネプコン ジャパン(インターネプコン2022)」にて、経済産業省(経産省)の商務情報政策局情報産業課長である西川和見氏が「半導体・デジタル産業戦略について」と題して基調講演を行った。
コロナ禍において全世界で加速するデジタル化、脱炭素化、経済安全保障のトレンドの中で、半導体や5Gやデータセンターなどのデジタルインフラ、クラウドをはじめとするデジタル産業の重要性が一層高まっている中、その苛烈な国際競争に勝ち抜くために、日本の半導体・デジタル産業の現状を踏まえ、官民は今後どのような方向に進むべきなのかについて同氏が経産省としての見解を説明した。
経産省が打ち出した「デジタル日本改造」とは?
西川氏は、まず経産省が2022年1月6日に開催した産業構造審議会で打ち出した「デジタル日本改造」について説明を行った。
故・田中角栄元首相が掲げた日本列島改造論(1972年)から50年が経過したが、この列島改造論は、「工業再配置と交通・情報通信の全国整備を通じた地方分散の実現」を目的としていたが、「距離」という物理的制約を埋められず、都市化の加速を招いた。また、格差是正を目指した結果、行政サービスが「全国画一的」なものとなっていった。これに対して「デジタル日本改造」は、デジタル技術の徹底活用により「地域性」「多様性」あふれる「デジタル田園都市」の実現を目指そうというものとなっている。コロナ禍により顕在化したデジタル利用に関する不可逆な流れを一気に加速し、それを起点に、国・地方の行政のあり方の見直しと、産業のイノベーション、デジタル基盤インフラ整備を徹底的に進めるとともに、地域に新たな雇用と付加価値を生み出し、国民一人一人の多様で豊かな生活を実現することを目指すものだという。
日の丸半導体凋落の主要因は?
経産省の2021年の「半導体産業戦略」の発表に際し、梶山経産大臣(当時)が「半導体は国の命運を握る。半導体の失われた30年を反省し、半導体政策を大きく転換することにした」と述べた。この「過去30年にわたる日の丸半導体産業凋落」の主要因について、西川氏は、
- 日米半導体協定に基づく規制などの日米貿易摩擦による日本勢のDRAM敗退
- 設計と製造の水平分離、いわゆるファブレス・ファウンドリモデルに移行できなかった失敗
- デジタル産業化の遅れによる半導体の顧客となる国内デジタル市場の低迷
- 日の丸自前主義による陥穽により世界とつながるオープンイノベーションのエコシステムや国際アライアンスを築けなかったこと
- 国内企業の投資縮小によるビジネス縮小とは対照的な韓台中の国家的企業育成による企業業績増進
を挙げて説明した。
半導体産業復活に向けた基本戦略
経産省は、これらの反省に立って、今回あらたに日の丸半導体復活の戦略を立案したという。
経済産業省の半導体産業復活の基本戦略は、
- IoT用半導体生産基盤の緊急強化(ステップ1)
- 日米連携による次世代半導体技術基盤の強化(ステップ2)
- グローバル連携による将来技術基盤の強化(ステップ3)
の3段階の構成になっているという。
ステップ1の「IoT用半導体生産基盤の緊急強化」に関しては、経済安全保障上、先端半導体(ロジック、メモリ)を安定確保するために海外半導体ファブを国内に誘致し、複数年度にわたる継続的な金銭的支援を行うとともに、既存製造基盤の刷新と強靭化を図ると西川氏は述べた。
ステップ2の「日米連携による次世代半導体技術基盤の強化」に関しては、つくばの産業総合研究所による「Beyond 2nmプロセス開発」に向けた研究開発コンソーシアム形成に賛助会員としてIntel、IBMに参画してもらうなど、日米連携による次世代半導体技術開発をさらに強化していくとする。
ステップ3の「グローバル連携による将来技術基盤の強化」に関しては、さらなる微細な領域である次世代の「光融合技術」の研究開発に取り込む。光融合技術は、2030年以降、ゲームチェンジャーになる可能性があり、第3次研究開発国家プロジェクトを開始する。光融合技術は、世代が進むにつれて微細な領域にまで光エレクトロニクス技術が適用されるため、第4次以降も継続した技術開発が必要であるとしている。
以上が、西川氏の講演の要旨である。すべてのステップに共通しているのは、製造や研究分野での海外企業の誘致(あるいは招致)である。経産省では大臣までが従来の自前主義を排するといっているが、日本は決して自前主義だったというわけではない。
過去の一部のコンソーシアムや国家プロジェクト(国プロ)にはIntel、Samsungはじめ海外企業を招致していたし、そのことを経産官僚も自慢していた。しかし、したたかな海外勢がそうした取り組みで得た成果を持ちかえり活用したのに対し、日本勢は成果を活用する基盤を失ってしまったということだろう。これから始まる半導体分野への兆円単位ともみられる税金の投入が無駄にならぬように過去の失敗は生かさねばならないが、書類の上ではいずれの国プロも成功したこととされているようであり、本当にこれまでの経験が活かされるのか、注視していく必要があるだろう。