1938年に創業、約1万人の社員を抱えるパイオニアが、ハードウエア企業からソリューションサービス企業へ転身すべく、大規模な改革を進めている。
12月9、10日に開催された「TECH+EXPO 2021winter Forデータ活用~データが裏づける変革の礎」に登壇したパイオニア モビリティサービスカンパニー Chief Customer Officer & Chief Marketing Officerの石戸亮氏は、「デジタル時代に最速で進化・成長する秘訣」と題し、変革に向けた具体的な取り組みについて説明した。
再成長に向け、カンパニー制を導入
かつて、”音のパイオニア”としてステレオなどで一世を風靡したパイオニアだが、1990年に世界初の市販向けGPSカーナビを発売して以降、カーエレクトロニクスをメインの事業としている。一方、石戸氏はサイバーエージェント、Google、イスラエルのベンチャー企業などを経て2020年4月、パイオニアに入社。現在モビリティサービスカンパニーの Chief Customer Officer & Chief Marketing Officerとして、パイオニアをソリューションサービス企業へ変革すべく奮闘中だ。
数年前、業績悪化から経営危機に陥った同社は2019年、再生を賭けて非上場化に踏み切った。再成長の道筋を模索した結果、「モビリティプロダクト」と「モビリティサービス」の2つのカンパニーから成るカンパニー制を敷くことを決定。モビリティプロダクトカンパニーは、カーナビやカースピーカーなどを展開する既存のカーエレクトロニクス事業であり、石戸氏が所属するモビリティサービスカンパニーはこれまで蓄積してきた車載データを使った新規事業となる。併せて経営陣の半分近くに外部人材を招いたことなども奏功し、「現在は再成長のフェーズに入っている」と石戸氏は言う。
いかに既存資産をリメイクして新しい価値を生み出すか
時代と共に“ビジネスの場所”は変わる。2000年以降のテレコズム時代、ビジネスの場はインターネット帯域やモバイルデバイス、スマートカード上に移った。「これからの時代に考えるべきポイントは『どう戦っていくのか』だ」と石戸氏は語る。
同氏がパイオニアに入社した決め手の一つとなったのは、同社がカーナビやドライブレコーダーなどを通じて得ている車載データの存在だ。例えば、2006年以降蓄積している走行距離のデータは約80億km分、事故予防に重要なヒヤリハット地点のデータは2017年以降で約60万地点分、高精度な位置情報に基づく走行画像は2013年以降で約1.4億枚分に上っている。これらを利活用することで、渋滞予測や交通規制把握、災害影響予測、事故リスク把握、復旧支援と運行計画といった社会課題の解決につなげることができるのだという。
「こうしたアセット(資産)をどのようにしてリメイクし活用していくのか」「ハードウエア、ソフトウエアでどのように新しい価値を提供するのか」がソリューションサービス企業へと転換していく上でのポイントだと石戸氏は説く。カンパニー制度においても、現在は既存事業であるモビリティプロダクトが売上と利益の多くを占めているが、2025年にはモビリティサービスについてもEBITDA(利払い前税引き前償却前利益)ベースでの比率を伸ばしていく計画になっている。
「ハードウエアや組み込み型ソフトウエア、データなどのアセットをリメイクし、SaaSならではのサービス開発と営業、マーケティング、カスタマーサクセス組織を実現するために、いろいろなかたちで変革を進めています」(石戸氏)