東京工業大学(東工大)、海洋研究開発機構(JAMSTEC)、宇宙航空研究開発機構(JAXA)などの研究チームは1月27日、太陽系の火星と木星の公転軌道の間に存在する小惑星帯の観測と理論計算を組み合わせることで、太陽から遠く離れた極寒の環境で誕生した天体が小惑星帯に数多く存在していることを突き止めたと発表した。
同成果は、東工大 地球生命研究所の黒川宏之特任助教、JAMSTEC 超先鋭研究開発部門 超先鋭研究プログラムの渋谷岳造主任研究員、米・カリフォルニア工科大学 地質学・惑星科学専攻のエルマン・ベサニー教授、神戸大学大学院 理学研究科 惑星科学研究センター 臼井文彦特命助教(現・JAXA 宇宙科学研究所(ISAS) 宇宙科学プログラム室 主任研究開発員)らで構成される国際共同研究チームによるもの。詳細は、地球と宇宙に関する全般を扱う学術誌「AGU Advances」にオンライン掲載された。
小惑星の中で「C型」と呼ばれるものは、水や有機物を含む「炭素質コンドライト隕石」に近い組成を持つとされており、地球の大気や海、生命の材料物質の起源と考えられている小天体の1つであり、そうしたC型小惑星がどこでどのようにして誕生したのかの謎の解明に向けてさまざまな研究が進められている。
ただし、今回の研究で着目されたアンモニアを含む「層状珪酸塩鉱物」は炭素質コンドライト隕石中ではこれまで発見されておらず、小惑星帯のC型小惑星においてもその存在が確実視されていたのは、探査機が訪れて直接確認した準惑星ケレスだけであったという。
そこで研究チームは今回、小惑星帯におけるアンモニアを含む層状珪酸塩鉱物の存在の追求に向けた、JAXAが打上げた赤外線天文衛星「あかり」で取得したデータの詳細解析を実施したほか、アンモニアを含む層状珪酸塩鉱物の形成条件の解明を目的とした理論計算を実施し、それらの結果をもとに小惑星誕生過程の検討を行ったという。
「あかり」が過去に取得した66の小惑星の分光データから、データの信頼性などを踏まえながらC型小惑星19天体と、C型小惑星より始原的と考えられるD型小惑星2天体、合計21天体の小惑星のデータを抜粋し、それらの詳細な解析を行ったところ、解析された小惑星の約半数の天体において、その表面にアンモニアを含む層状珪酸塩鉱物の存在が確認されたという。
また、アンモニアを含む層状珪酸塩鉱物がどのような環境で形成されるのかについて、小惑星内部における水と岩石の化学反応の理論計算が行われたところ、小惑星がアンモニアの氷とドライアイスを含んで誕生した場合にのみ、発見された鉱物が生じることが判明したほか、水が豊富な外層と岩石を主成分とする内核に分化した小惑星の、外層部分においてのみアンモニアを含む層状珪酸塩鉱物が形成されることも判明したという。
太陽系における現在のアンモニアのスノーラインは、およそ太陽から10天文単位の距離にある土星軌道の外側とされていることから、アンモニアを含む層状珪酸塩鉱物を有するC型小惑星は小惑星帯からはるか遠くで誕生した後、現在の位置まで6~7天文単位ほどの長距離を移動してきたことを示唆しているとした。
また、C型小惑星の破片と考えられている炭素質コンドライト隕石においてアンモニアを含む層状珪酸塩鉱物が検出されない理由について研究チームでは、氷に富んだ外層の物質は隕石として地上に到達することなく四散してしまうためだろうと結論づけている。
なお、現在、小惑星探査機「はやぶさ2」が、地球の比較的近傍の軌道を公転するC型小惑星「リュウグウ」から持ち帰った試料の分析が進んでいるほか、2023年にはNASAの小惑星探査機「オシリス・レックス」がB型小惑星「ベンヌ」から採取した試料が地球に届けられる予定で、研究チームでは、これらの小惑星の試料からアンモニアを含む塩や鉱物が発見された場合、今回の研究の結論を裏付けるものとなることが期待されるとしている。