東京大学(東大)は1月24日、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株であるオミクロン株の性状を明らかにしたと発表した。

同成果は、東大 医科学研究所 ウイルス感染部門の河岡義裕特任教授らの研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」にオンライン掲載された。

新型コロナは確認されて以降、次々と変異を繰り返し、アルファ、ベータ、デルタなど懸念すべき変異株が登場し、2022年1月時点では、日本を含む世界110か国以上でオミクロン株が爆発的に感染例が増加しており、2021年12月には世界保健機関(WHO)によって「懸念すべき変異株」に指定されている。

しかし、オミクロン株の基本性状については、確認されてから日が浅いこともあり、良く分かっていなかった。

そこで河岡特任教授らの研究チームは今回、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染モデル動物であるマウスとハムスターを用いて、患者から分離したオミクロン株の増殖能と病原性を従来の流行株と比較することにしたという。

その結果、マウスを用いた実験から、マウスの肺や鼻におけるオミクロン株の増殖能が、ベータ株と比べて低いことが判明したほか、オミクロン株感染マウスでは、呼吸器症状の悪化も認められなかったという。

  • 新型コロナ

    野生型マウスにおけるオミクロン株の増殖力と呼吸機能への影響。オミクロン株がマウスの鼻腔内に接種された。(A)感染後3日目の鼻と肺におけるウイルス量が測定された。オミクロン株は、ベータ株と比べて呼吸器での増殖が低かった。(B)呼吸機能の評価指標の1つである「最大呼気流量」は、気道の状態を測定できる指標である。ベータ株では感染2日後に低下が認められ、気道の状態が悪化していたが、オミクロン株では感染後の低下は認められず非感染マウスと同程度であった (出所:東大Webサイト)

一方のハムスターを用いた実験として、オミクロン株とデルタ株の比較を実施。デルタ株感染ハムスターでは、体重減少と呼吸器症状の悪化が認められたのに対して、オミクロン株感染ハムスターでは、体重減少と呼吸器症状の悪化は見られなかったという。

  • 新型コロナ

    野生型ハムスターにおけるウイルスの病原性と増殖力。オミクロン株がハムスターの鼻腔内に接種された。(A)接種後、非感染動物(対照群)と感染動物の体重が毎日測定された。デルタ株感染群では体重の減少が見られたが、オミクロン株感染群では体重減少は認められなかった。(B)最大呼気流量は、デルタ株では感染5日後と7日後に低下し、気道の状態の悪化が認められたが、オミクロン株では感染後の低下は認められなかった。(C)感染後3日目の鼻と肺におけるウイルス量が測定された。鼻において、オミクロン株はデルタ株と同程度増殖していたが、肺でのウイルス量はデルタ株と比較して低下していた (出所:東大Webサイト)

またオミクロン株は、ハムスターの鼻では良く増えたが、肺での増殖能はデルタ株よりも低いことも確認されたほか、感染動物の肺の解析から、デルタ株感染ハムスターでは新型コロナ患者で見られるような肺炎像が観察されたが、オミクロン株感染ハムスターでは、軽度の炎症しか見られなかったとした。

今回の研究から、動物モデルではオミクロン株の増殖能と病原性が、これまでの流行株と比較して低いことが示されたが、これが実際にヒトにそのまま当てはまるかどうかについては不明であると研究チームでは説明しており、重症化しやすい高齢者や基礎疾患を有する人、あるいはワクチン接種を受けていない人など、新型コロナに対する免疫を持っていない人に対して、オミクロン株がどのような病原性を示すのか、今後も検証が必要だとしている。

なお、今回の研究を通して得られた成果については、変異株のリスク評価など、行政機関が今後のCOVID-19対策計画を策定、実施する上で、重要な情報となるとしている。