東日本電信電話(NTT東日本)は1月24日から28日まで、年次イベント「NTT東日本 Solution Forum2022 ONLINE」を開催する。今年で3回目となる同イベントは、昨年に引き続きオンラインでの開催だ。「地域からミライをつくる」を主テーマとする今年のイベントの中から、同社の代表取締役社長である井上福造氏の基調講演の模様をお届けしよう。講演の焦点は「非通信事業への挑戦」だ。

  • NTT東日本電信電話 代表取締役社長 井上福造氏

地域課題の解決に向けたNTT東日本の3つの事業拡大領域

NTT東日本はNTTグループにおいて、地域の通信事業を担ってきた。近年は顧客の要望や課題が多様化し、その解決のためには通信機能の提供だけでなくさまざまな製品やサービスを組み合わせた支援が必要だとして、同社は「地域のコンシェルジュ」となるべく課題解決に取り組んでいるという。

新型コロナウイルス感染症が流行する以前は、「人手不足への対応」が地域社会の最大の課題であり、これが地域社会のデジタル化を推進する大きなエンジンであったと井上氏は振り返った。

現在はコロナ禍によって「非接触」が強く求められるようになり、さまざまな分野でオンライン化への対応が必須となっている。コロナ禍の当初は既存の仕組みをデジタルツールによって代替するサービスが注目されていたが、コロナ禍が長期化する中で従来のフローの非効率さを根本的に解消するようなツールも出現し始めている。最近では、デジタルとオンラインを前提として、事業や社会生活そのものを見直す動きも加速している。

通信事業を展開する同社は「通信を使ってどのように社会課題を解決するか」に取り組んできた。しかし、顧客の困りごとを聞いてみると「地域産業の活性化」や「地域アセットの有効活用」など、非通信分野の要望が増加しており、こうした動きは特にコロナ禍の2年間で顕著になっているとのことだ。現在では約半数近くが非通信分野の要望だという。

  • コロナ禍で非通信分野の需要が高まっているようだ

井上氏は非通信分野の需要に対応するには事業領域の拡大が必須であるとして、「地域のスマート化を実現するDX(デジタルトランスフォーメーション)ソリューションの提供」「地域の人手不足を補完するBPO(Business Processing Outsourcing)」「地域のアセット・人材を含めたシェアリングエコノミーの構築」といった3点の方向性を挙げた。

同社ではこれまで、農業やeスポーツ、文化芸術などさまざまな分野で専門の会社を立ち上げてきた。そうしたグループ会社も含めたアセットやマンパワー、ノウハウを活用して事業領域を拡大し、地域の課題解決に貢献するとのことだ。

同社は昨年、新型コロナウイルスワクチンの接種に際して、会場の設営から申し込みの受け付け、接種券の発送、実行の管理までワンストップで提供している。このように、同社が持つコールセンターやオフィスマネジメントなど、幅広いケイパビリティを活用する例の拡大に取り組む。

  • 事業領域を拡大するための3つの方向性

「NTTe-City Labo」でローカル5G関連ソリューションを提供

同社がソリューションを提供する上で心掛けているのは、「導入のハードルを低くすること」「状況の変化に応じて見直していくこと」の2点だという。

同社ではこの方針に基づいて、東京都調布市にある研修センターを「NTTe-City Labo」と名付け、ローカル5G(第5世代移動通信システム)のオープンラボを設置するなど、地域の課題解決ソリューションを体感できる場所の整備を進めている。将来的にはスマートシティを体感できるショーケースとしての利用を目指す。

  • 「NTTe-City Labo」のイメージ

「NTTe-City Labo」の具体的な取り組みの一つに、REIWA(Regional Edge with Interconnected Wide-Area Network)プロジェクトがある。スマート農業やスマートシティなど多数のセンサーやカメラを接続する際に遅延なくセキュアな通信を実現するため、地域単位にエッジコンピューティング拠点を構築するプロジェクトだ。各地域の顧客にとっては、高額なコンピューティング機器をシェアできるため導入コストが下がる。

取り組みの第一弾として、今春までに映像解析サービスの提供を開始する予定だ。カメラで撮影した映像をAI(artificial intelligence:人工知能)で解析し、マーケティングに活用したいといった要望を受けて、現在使用中のカメラを接続するだけで利用できる手軽なサービスとして展開する。

また、これまでのローカル5Gの導入はコストなどの理由から大企業が中心だった。そこで同社は東京都および東京大学と3者協定を締結し、DX推進センターにおいてローカル5Gの実証実験に取り組んでいる。同施設ではNTT東日本のローカル5G設備をシェアして、中小企業における5GやIoT、ロボットといった先端技術の検証が進められている。

「このような施設がコスト負担を軽減する形態の一つになるのではないか」と井上氏は述べた。

このような共同利用型をさらに発展させた形態として、同社はマネージドローカル5Gサービス「ギガらく5G」を今春までに提供予定だ。5Gスタンドアローン環境を月額30万円程度から展開するサービスであり、事前の手続きから設計、構築、運用までトータルに支援する。

  • 「ギガらく5G」のサービスイメージ

事業者のDX実現に向けて伴走する新会社を設立

続いて井上氏は「お客様の事業をより深く理解してDXを活用した変革を提案する必要がある」と述べ、コンサルティングを中心事業に据えた新会社「NTT DXパートナー」を1月31日に設立することを発表した。矢野信二氏が代表取締役社長に就任する予定だ。

新会社では、DXに関するコンサルティングを中心とした事業変革支援に加えて、ソフトウェアの開発や運用、クラウドを活用したデジタルプラットフォームの開発、DX人材育成のためのノウハウ提供などを展開する。

地域の事業者との共創を通じて事業変革や新規事業の創造を目指し、DXの構築から現場への導入まで伴走する企業を目指すという。多様化する事業者の要望に応えるため、同社ではDX人材の育成を強化する。AIやクラウド、セキュリティなど幅広い領域の先進技術や専門知識を身につけ、地域のコンシェルジュとして機能するために人事交流や研修などを通じた人材育成に取り組むとのことだ。

もともと「電話の会社」として事業を展開してきた同社がどのようにスキル転換を図ったのか問われる機会が増えたこともあり、同社の人材育成プログラムを展開していくのだという。

  • 新会社「NTT DXパートナー」を設立する