大阪大学(阪大)、名古屋大学(名大)、科学技術振興機構の3者は1月21日、-271.15℃(絶対温度1.4K)の極低温下において、レーザー光を用いて微粒子を捕捉・固定する「光ピンセット」を実現したことを共同で発表した。

同成果は、阪大大学院 基礎工学研究科の蓑輪陽介助教、同・芦田昌明教授、名大大学院 工学研究科の亀山達矢准教授、同・鳥本司教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、光学とフォトニクスに関連する全般を扱うオープンアクセスジャーナル「Optica」に掲載された。

レーザー光を急峻に集束させることで、その集光点の周辺に微粒子を捕捉・固定する技術である光ピンセットは、医学・生物・化学・物理などさまざまな分野で活用されており、2018年にはノーベル物理学賞を受賞したことでも知られている。

現在までに水溶液中や細胞中、真空中、超高圧下など、さまざまな環境で用いられてきたが、いずれも常温付近での利用であり、異なる温度領域への適応が課題となっていたという。そこで研究チームは今回、極低温環境での光ピンセット技術の実験に挑むことにしたという。

具体的には、高強度レーザーパルス光を固体に照射することで、瞬間的に対象固体を溶融・蒸発・プラズマ化させる「レーザーアブレーション」を用いて大量の微粒子を作り出し、その微粒子を、液体ヘリウムを-271.05℃(2.1K)以下に冷却することで現れる量子的な液体「超流動ヘリウム」に直接導入。さらに、一体成型非球面レンズを用いることで、-271.75℃(1.4K)という極低温環境下で、一部の微粒子を光ピンセットで捕捉することに成功したという。

今回は、常温の光ピンセットで標準的に用いられる金と、透明かつ光ピンセット捕捉力が強いとされる酸化亜鉛を用いて実験が行われたが、今回の成果は、さまざまな温度環境において光ピンセット技術を適用できることを示す成果となると研究チームでは説明している。また、光ピンセットによって捕捉された固体ナノ微粒子の運動状態を観測することで、超流動ヘリウムという粘性が、非常に低く量子的な性質を持つ特殊な液体の性質を解明することも可能であるということが示されたともしている。

なお、超流動ヘリウム中には、量子化された渦である「量子渦」と呼ばれる1次元的な位相欠陥が存在することが知られており、これまでの研究から、その量子渦は周囲に存在する微粒子を中心(渦芯)に引きつけ、量子渦の渦芯上に安定して存在し続けることが分かっている。研究チームでは、このような量子渦と微粒子群の複合的構造に、今回実証された光ピンセット技術を用いることで、量子渦を光で捕捉・操作するような研究が可能になるのではないかと考えられるとしており、今後、そうした量子渦の研究によって、乱流や渦の性質の普遍的理解が進むことが期待されるとしている。

  • 光ピンセット

    極低温での光ピンセットの模式図。緑色のレーザー光により微粒子が作製された。そして、近赤外レーザー光による光ピンセットで微粒子が捕捉された (出所:阪大Webサイト)