大阪大学(阪大)、新潟大学、青山学院大学(青学)、琉球大学の4者は、高温超伝導物質に関する「銅と酸素からなる平面構造が駆動源」という従来の定説とは異なる仕組みを持ったハイブリッド超伝導物質を発見したことを発表した。

同成果は、阪大大学院 基礎工学研究科の西岡颯太郎氏、同 中川俊作氏、同 八島光晴 助教同 椋田秀和 准教授、新潟大 自然科学系の佐々木進 准教授、青学理工学部 物理科学科の下山淳一 教授、琉球大理学部 物質地球科学科の與儀護 准教授らの研究チームによるもの。詳細は、応用物理学を扱う学術誌「Applied Physics Express」に掲載された。

電気抵抗がゼロになる超伝導は約110年前に発見され、1986年に高温超伝導物質が発見されて以降、より高い超伝導転移温度を実現する物質が発見されてきたが、そのメカニズムについては良く分かっていなかったという。

ただし、高温超伝導物質には、必ず銅原子と酸素原子からなる平面構造があり、この平面構造こそが、超伝導を引き起こす駆動源とされ、これまでにもそれを定説としたさまざまな高温超伝導を説明する理論が提案されてきていた。

そうした背景のもと、研究チームは今回、物質として単独では超伝導にならない2種類の物質に着目し、そのハイブリッド構造から適切な量の酸素を引き抜くと超伝導になることが見出されたという。

これまでにも同様の試みは世界中の複数の研究チームが行っていたが、それらの手法では超伝導の性質が劣化してしまうということがわかっており、今回、それを回避する独自合成手法を考案することで、完全なハイブリッド超伝導物質の合成に成功。その特性を調べているうちに、平面構造が絶縁状態(電気を通さない状態)の可能性があることに気がついたという。

  • ハイブリッド超伝導物質

    開発されたハイブリッド超伝導物質の構造 (出所:阪大Webサイト)

そこで、物質に特定の電波を当て、その応答を見るという方法を、独自開発によって市販品の数十倍の高感度にした核磁気共鳴法(NMR)を用いて実施。ハイブリッド超伝導物質が完全な結晶構造であること、ならびに超伝導特性の完全性が間違いないものであることが確認されたとする。

  • ハイブリッド超伝導物質

    ハイブリッド超伝導物質の超伝導特性 (出所:阪大Webサイト)

また、平面構造の絶縁性に関する調査として、ハイブリッド超伝導物質中のどの位置にある銅原子からの応答なのかが調べられたところ、超伝導となる-255℃(18K)よりも高い+27℃(300K)では、平面構造を構成する銅原子からの応答信号は、ほかの位置にある銅原子と同様、周波数15MHzから35MHzの領域において観測されたが、-271℃(約2K)では、平面構造中の銅原子からの応答信号は、15MHzから35MHzの領域から完全に消失し、もっと高い周波数域(60~130MHz)において観測され、この周波域に現れた信号はすべて平面構造中の銅原子からのものであることが確認されたという。

  • ハイブリッド超伝導物質

    ハイブリッド超伝導物質中の銅原子からの応答信号の調査結果 (出所:阪大Webサイト)

研究チームでは、仮に平面構造が超伝導状態なら、その応答信号はこのような高い周波数ではなく、依然として室温と同じ周波数に観測されるはずであるため、この結果こそ、「平面構造は電気を通さない状態である」ことを決定づける証拠になるとしている。

なお、今回の研究では、開発されたハイブリッド超伝導物質のどこが超伝導の駆動源となっているのかまではわからなかったとのことで、今後、それを明らかにする必要があるとし、今回開発された独自の超高感度NMRを活用して解明を進めていくとしている。