はじめに

継続的な接続性の進化に伴い、オフィスビルや倉庫の新築または改装時には、インフラレベルでパワーオーバーイーサネット(Power over Ethernet:PoE)をサポートすることが一般的になっています。

イーサネットと同様に、PoEは監視カメラ、インテリジェント照明、その他の「スマート」センサなどのデバイスを接続するのに使用されます。多くの場合、スマートビルディングは、資産追跡やオブジェクト検索システムなどの革新的なテクノロジも実装します。これらのサービスは、Bluetooth LowEnergy仕様の一部としてサポートされる屋内測位やリアルタイムロケーティングシステム(RTLS)などのテクノロジに基づいて構築されます。

この記事では、屋内測位とRTLSの実装方法について解説し、その2つの違いを説明します。また、PoEがこれらの位置情報サービスとそれらの実装に使用されるデバイスに理想的な高速電力バックボーンを提供する方法についても説明します。

リアルタイムロケーティングシステム(RTLS)とは?

RTLSによりワイヤレステクノロジを使用して、資産を追跡したり特定したりすることができます。

RTLSは、衛星信号が弱すぎて信頼性を確保できない屋内で動作するように設計されています。これには、大きな商業スペース、倉庫、学校、病院の建物などのエリアが含まれます。

屋外のGPSシステムでは数mまでの精度しか提供できませんが、屋内のRTLSシステムは10cm以内の精度を提供できます。これは安全性実現、危険ゾーンの監視、物体の位置特定を行うアプリケーションにとって大きな利点です。

RTLSシステムの使用例としては、倉庫内のパレットやフォークリフトの追跡、超音波装置や人工呼吸器などの病院内の可動式医療機器の位置マッピングなどがあります。

RTLSの実装

RTLSシステムは一般的にRF、IR、可視光、超音波などの無線媒体を使用して実装されます。この場合の良い例が、三点測量を利用してオブジェクトの位置を決定する受信信号強度インジケーター(RSSI)という機能に基づいて、Bluetooth位置情報サービスに使用されるタグです。位置情報をサーバに送信し、電話やPCなどのエンドデバイスからアクセスして、資産を追跡できます。このタイプのRTLSは1〜10mの位置精度を提供します。

BluetoothはRSSIをサポートしていますが、Bluetooth仕様の最新バージョンでは方向探知機能が導入されています。これにより、受信機はBluetooth信号が送信されている方向を判別できます。この方向探知機能は、到達角度(AoA)と放射角度(AoD)の2つの位置特定方法をサポートします。これらのうちBluetoothベースのRTLSはAoAを使用しています。

AoA方式では送信デバイスにはアンテナが1本しか必要ありませんが、受信機(またはロケーターデバイス)は複数のアンテナを使用します。送信された信号が受信機のアンテナに到達すると、受信アンテナ間の物理的距離に基づいて、受信した各信号間に固有の位相差が生じます。受信機はこれらの信号間の位相差を使用して、到来角(信号が送信されてきた相対的方向)を計算します。図1に送信機と受信機のアンテナ配置を示します。

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    図1:AoA方式での送信機と受信機の配置

屋内測位システム(IPS)

屋内測位システム(IPS)を使用すれば、ユーザは、空港のインフォメーションデスクや博物館の展示物など、建物内のスポット(POI)の位置を特定できます。これは通常、空港の到着デスクに乗客を誘導したり、博物館の特設展示物に訪問者を誘導したりするなど、ユーザがPOIに到達するための経路を示すのに使用されます。

IPSは、Bluetooth Low Energy(Bluetooth LE)接続を使用して実装することもできます。この場合、多数のBluetooth LE送信機(ロケータービーコンとも呼ばれる)が、建物全体の固定された既知の場所に設置されます。ユーザはスマートフォンアプリを使用して、Bluetoothラジオでロケータービーコンから送られる信号を傍受できます。各ビーコンの受信信号強度(RSSI)と、ビーコンの送信位置により、アプリは三点測量を使用して電話の現在位置を計算できます。この方法でもRSSIを使用するため、1〜10mの精度が得られます。

RTLSとIPSの違い

RTLSシステムでは、資産の位置が集中型サーバに送信されます。スマートフォンやPCなどのエンドデバイスがサーバに接続して、資産の位置を要求します。RTLSアプローチは、一般的に倉庫でのフォークリフトやパレット、その他の移動資産の追跡や、病院での医療機器や患者の位置の特定に使用されます。

IPSアプローチでは、デバイスがその位置をエンドデバイスに直接送信する必要があります。ほとんどの場合、これを行うのはスマートフォンアプリです。屋内測位システムの利用例としては、空港での屋内ナビゲーションや、博物館での展示物の詳細などの位置依存情報へのアクセスなどが挙げられます。また、店舗のウィンドウを通り過ぎる買い物客に、特定商品の特典などの情報を送信することも可能です。

IPSには、Bluetoothのバージョン5.1で提供される放射角度(AoD)機能が使用されています。AoDでは、ロケータービーコンがアレイ配列の複数のアンテナを使用して信号を送信します。1本のアンテナのみ備えたスマートフォンは、送信機から複数の信号を受信し、信号の同相(I)および直交(Q)成分を計算します。これらのサンプリングデータに基づいて、スマートフォンアプリが相対的な信号方向を計算できます。AoD方式では、1m以内の精度が得られます。図2にAoDでの送信機と受信機のアンテナ配置を示します。

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    図2:AoD方式での送信機と受信機の配置

IPSを可能にする他のテクノロジ例としては、可視光通信(VLC)などがあります。VLCは、ライトフィデリティ(Li-Fi)とも呼ばれ、白色LED光を独自のコードで変調し、5m以上の距離を500Mビット/秒で伝送するデータ通信技術です。スマートフォンなどのエンドデバイスが、これらのライト(または照明器具)3個以上の範囲内にある場合、三角測量アルゴリズムを使用して各照明器具までの距離を計算し、それによって独自の位置を計算できます。この方法では、30cmの精度で位置を提供できます。VLCベースの屋内測位システムの一例がSignifyYellowDotプログラムです。

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    図3:可視光通信(VLC)ベースのIPS方式

パワーオーバーイーサネット(PoE)

前述のように、産業、商業、病院の建物にパワーオーバーイーサネット(PoE)ネットワークを導入することが、ますます一般的になっていますが、これが位置依存サービスにどのように役立つでしょうか? イーサネットテクノロジは、1本のイーサネットケーブルでデータと電力を供給できるため、別々のケーブル配線の必要性を減らすかなくすことが可能です。これにより、企業の全体的な電力およびネットワーク基盤コストを削減できますが、PoEを使用すると、電源コンセントが設置されていない建物部分にある照明器具などの増設機器に、容易に電源を拡張できます。

これはPoE接続された照明器具が電力とデータの両方を持つようになったことに関連があります。電力とデータの両方を持つことにより照明器具は急速に進化し、占有検知、湿度、温度センサなどのスマートセンサを内蔵するようになりました。これらのセンサは照明器具に直接組み込まれ、PoEで接続されるため、基本的に「プラグ&プレイ」です。

スマートセンサは、占有率だけでなく、建物内の実際の人数を監視するのに使用できます。ビル管理システムは、この情報に基づいて、ライトの明るさや非常口ライトの照明などの環境をより適切に制御して、ビル居住者にとって安全で生産的な環境を実現できます。

イーサネットネットワークを介して、RTLSおよびIPSサービスを可能にするための追加テクノロジを実装できます。これがBluetooth LEモジュールとVLC送信機が照明器具に統合される部分であり、これによって電源コンセントや有線通信が不要になるため、実装コストがさらに削減されます。顧客にとっては、位置情報サービスのインストールとテストに関してプロジェクトの複雑さが軽減されます。

図4にシステムのブロック図を示します。

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    図4:POEをバックボーンとして使用するアプリケーション例

この接続照明が新しいソリューションにどのように影響するかを示す一例として、一体型照明ソリューションの大手サプライヤであるZumtobel社とRTLSテクノロジの大手プロバイダであるQuuppa社とのパートナーシップを検討してみます。この場合、Zumtobel社はPoE対応の接続照明器具を開発し、Quuppa社はBluetoothLEモジュールをベースにしたRTLSを設計し供給しました。このコラボレーションの結果生まれたのが、PoE接続フィクスチャに統合されたRTLSモジュールです。次の写真はこの配置を示しています。

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    図5:Quuppa社製RTLS Bluetooth LEセンサを使用したZumtobel社のPoEネットワーク(Quuppa社提供)

まとめ

RTLSの導入はすでに、企業が資産を正確に追跡および特定して、サプライチェーン全体の効率化を図るのに役立っています。IPSの開発は、空港の旅行者、モールの買い物客、博物館の訪問者のガイドに役立っています。

PoEは、これらのイノベーションを実現するのに必要な電力とデータの基盤を提供しています。オンセミ(onsemi)はRTLSとIPSをより高速にオンライン化するための様々なテクノロジソリューションを提供しています。例としては、RSL10 Quuppa AoA RTLSCMSISパックなどのソフトウェアキットによるRTLS開発をサポートする、超低電力Bluetooth LEデバイスのRSL10ファミリなどがあります。

そのほかにもPoEソリューションに関するポートフォリオやNCL31000インテリジェントLEDドライバを提供することで、ランプをスマート照明ネットワークに変えるビルディングブロックも提供しています。これらのネットワークは、すべての垂直セクタに付加価値サービスを提供するために、VLC、RTLS、IPSをサポートできるようになるでしょう。

屋内ナビゲーションとリアルタイム位置情報が、人と自律型デバイスの両方にとってより重要になるにつれ、これらのシステムの利点が急速に高まることが期待できます。PoEバックボーンを実装することで、システムインテグレータはいつでも要求に対応できるようになります。

著者プロフィール

Parthiv Pandya
onsemi
Product Marketing
Industrial IoT and Automation