NECは1月19日、政府が推進するガバメントクラウドを活用した行政デジタル化を支援するためのソリューションを「官公庁向けDXソリューション」として体系化したと発表した。同ソリューションは、4つのソリューション群とそれらと連携するセキュリティソリューションで構成されている。同社は各省庁の目的やセキュリティ要件などに合わせて、安全かつ柔軟に短期間でのクラウド移行・運用、アプリケーション開発などを支援する。

  • 「官公庁向けDXソリューション」

第一弾として、既存システムをクラウド環境へ移行するための「クラウドインテグレーションソリューション」、ネットワークやプラットフォームを提供する「プラットフォームソリューション」、およびクラウド移行を支援する「セキュリティソリューション」を提供する。

同日には記者説明会が開かれ、同社執行役員常務の中俣力氏によって「NECが目指す行政デジタル化に向けた取り組み」が説明された。

中俣氏は、「当社は、『NEC 2030VISION』を掲げ、未来に望む環境、社会、暮らしのイメージを具体的に示して、事業の中で実装を進めている。『デジタル社会の実現に向けた重点計画』を基に、デジタル庁が中心となって進める行政のデジタル化についても、政策に連動するとともに、事業を遂行する中で実現したい」と語った。

  • NEC 執行役員常務 中俣力氏

そのうえで中俣氏は、行政デジタル化に向けた注力領域として、「業務標準化」「デジタル基盤クラウドシフト」「職員の業務効率化」「国民の利便性向上」「マイナンバーカード民間活用」の5つを示した。

「業務標準化」においては、法制度を主管する府省が自治体向け基幹系システムの標準仕様書の策定を進めている。各パッケージベンダーは標準仕様書に基づきパッケージを改修し、国が自治体向けに整備を進めるガバメントクラウドへ移行を進める想定だ。2025年度末までに各自治体が標準化への対応完了を目指す中で、NECは業務標準化に対応したパッケージシステムを整備するとともに、ガバメントクラウドへの移行を支援する。

併せて、50年にわたり自治体業務を支えてきたシステムを基に、「自治体システムの標準化・共通化」と「自治体DX推進」を実現する自治体向けクラウドサービスを提供する。同サービスでは、自治体職員の負荷を軽減するアドオンツールやRPA・BIのテンプレートのほか、DXに活用できるAI、匿名加工技術、EBPM(エビデンスに基づく政策立案)関連のサービスなどを提供する予定だ。

  • 「自治体向けクラウドサービス」のイメージ

「デジタル基盤クラウドシフト」では、レガシーな官庁システムを刷新し、モダナイゼーションを進め、デジタルシフトの実現を目指す。NECは既存のクラウドサービスやデータセンターと、パブリッククラウドや閉域ネットワークを組み合わせた「ハイブリッドクラウド基盤」を提供する。基盤の整備にあたっては、AWSやマイクロソフトなどのハイパースケーラーとの協業のほか、印西に共同でデータセンター開設を進めるSCSKとも協業するという。

  • 「ハイブリッドクラウド基盤」のイメージ

「行政情報には、守らなければいけない個人の機微情報もあり、そうしたものは運用が可視化できるプライベートクラウドに収容。それ以外のオープンデータやアプリケーションはパブリッククラウドに置き、さまざまなデータを最先端の技術と合わせることで、ニーズに合ったサービスを提供していきたい」(中俣氏)

2023年度には、データ連携を高速かつ容易に実現するAPI連携基盤プラットフォーム「Digital Integration Hub」を提供する予定だ。同プラットフォームは、パブリッククラウドとプライベートクラウドをシームレスにつなげることを目的にしたもので、全てのクラウドのシームレスな接続と運用の自動化・効率化によりコスト削減、運用リスク回避を実現する。

  • 「Digital Integration Hub」の実装イメージ

「職員の業務効率化」では、社会のニーズの変化に迅速に対応できるシステム整備を支援するため、NECは官公庁のアジャイル開発支援とオファリングメニューを提供する。市場環境の変化、ニーズの多様化、さまざまな社会課題に行政が迅速に応えていくために、NECではシステムの実装方法をウォーターフォール+スクラッチ開発に「アジャイル開発・オファリング活用」を組み合わせたものに変えるべきと考えている。

今回提供された「官公庁向けDXソリューション」がオファリングメニューに当たり、自社提案での活用のほか他社SIerへの外販も実施する予定だという。アジャイル開発の支援にあたっては、NECが2018年に子会社化したKMDによる、行政のデジタル化が進むデンマークでの知見やノウハウをまとめ、アジャイル開発の手法・ツールとして提供していく。また、アジャイル開発の「試しながら進める」運用に制度が対応しきれていない面もあるため、予算制度や調達プロセス、契約ルール面の政策提言や実務面での提案も行う。

  • 市場環境の変化に適応したシステム開発

「国民の利便性向上」では、「NECスマート行政窓口ソリューション」で行政サービスのワンストップの実現を支援する。書かない、行かない、ノンストップをコンセプトとしており、今後は、政府が推進するマイナポータルを利用した「ぴったりサービス」や「引越しワンストップ」などに順次対応する予定だ。2022年8月からは東京都港区で、同ソリューションを活用した窓口総合支援システムの運用が開始する予定だ。住民異動届や住民票請求など、40種類の事務手続き業務をデジタル化するという。

  • NECが提供するワンストップ行政サービスのイメージ

  • 港区でのソリューション活用事例

「マイナンバーカード民間活用」では、「NEC マイナンバーカード認証サービス」を用いて、民間企業がマイナンバーカードを利用した本人確認を実現するためのクラウドサービスを提供する。事業者は同サービスを活用することで、システム環境の整備や主務大臣認定の取得を行う必要なく、公的個人認証サービスを利用できる。同サービスでは、認証に必要なセキュリティレベルに合わせて、eKYC(電子本人確認)や生体認証と組み合わせての提供も可能だという。

  • 「NEC マイナンバーカード認証サービス」のイメージ

NECはすでに、マイナンバーカードで本人確認を行う図書館アプリの実証実験を開始しており、2022年夏頃からは岩手銀行でスマートフォンとマイナンバーカードを使いペーパーレスで手続きを行う新サービスを開始する予定だ。

また、マイナポータルAPIとの連携支援も進める。すでに、ふくおかフィナンシャルグループでは、個人の所得証明等の書面提出を不要とし、行政が保有する所得情報などをマイナポータルAPIで取得し、オンライン手続きを完結する実証を実施している。