東北大学は1月14日、身体概念である「心の中の身体」は、約1世紀前から信じられてきた脳内に1つだけ存在するという考えは間違いで、実際には複数あることが明らかとなったことを発表した。
同成果は、東北大大学院 情報科学研究科の松宮一道教授によるもの。詳細は、米科学雑誌「米科学アカデミー紀要(PNAS)」に掲載される予定となっている。
運動機能障害を有する患者は、心の中で感じている自分の手や足に異常が生じており、この「心の中の身体」の回復が運動機能障害を克服する鍵を握っているとされるが、従来のリハビリテーションでは、そうした「心の中の身体」の回復までは考慮されていないため、その効果が治療的介入では持続しないと考えられている。
こうした運動機能障害を有する患者が訴える「心の中の身体」の異常は患者の主観的印象であるため、その病態は目に見えないことから、「心の中の身体」の異常を可視化する技術が求められている。
「心の中の身体」は、約1世紀前に唱えられた身体概念で、脳内に1つだけ存在し、すべての運動に対して共通に用いられると考えられてきたが、実際には明確に証明されたものではないという。例えば、ヒトは目で見た物体をつかむといった、身体の複数箇所を同時に運動させることを日常的に行っているが、その際に「心の中の身体」がどのように働いているのかは不明だったとする。
そこで松宮教授は今回、バーチャルリアリティ技術を使って、複数の運動を行っているときの「心の中の身体」を計測する手法を開発し、「心の中の身体」が1つなのか複数なのかを調査を行ったという。
具体的には、被験者が視線計測器付きのヘッドマウントディスプレイを装着し、自分の目と、位置センサを装着した左手の人差し指で同時に、自分の右手のさまざまな部位(指先や関節)を指すように教示するというもので、これらの右手の部位に対して、目で指した結果と、左手で指した結果から、目と手の各運動に対する「心の中で感じている右手形状」を計測することを可能とした。
実験の結果、目と左手が同時に同じ右手の部位を指しているにも関わらず、目で指した結果に比べると左手で指した結果から得られた右手形状は、より歪んでいることが確認されたとのことで、これにより「心の中の身体」が運動の種類に応じて異なることが明らかになったという。これは、「心の中の身体」が2つあることを示すもので、従来の「心の中の身体」の概念に修正を迫る成果だとしている。
また、運動機能障害を有する患者が訴える「心の中の身体」の異常を可視化するための新たな方法の開発につながることも期待できるようになることも期待されるとしている。
なお今回の成果について松宮教授は、運動の選択により可視化したい脳内身体表現を決定できることを意味しているとしている。