芝浦工業大学(芝浦工大)は1月14日、ココアやワインに多く含まれるフェノール性物質であるカテキン重合物画分の経口投与が、交感神経系の活性化を介して、燃焼型である「ベージュ脂肪細胞」を増加させることを実証したと発表した。
同成果は、芝浦工大 システム理工学部生命科学科の越阪部緒美教授、同大学の石井結子大学院生、同・牟田織江大学院生、同・手島知洋大学院生、同・平嶋那由多大学院生、同大学 システム理工学部生命科学科の尾高南結氏、同大学の伏見太希大学院生、同・藤井靖之大学院生らの研究チームによるもの。詳細は、栄養に関する題材を扱うオープンアクセスジャーナル「Nutrients」にオンライン掲載された。
脂肪細胞といえば、脂肪を蓄積する「白色脂肪細胞」と、脂肪を燃焼させて熱を産生する「褐色脂肪細胞」が知られているが、近年、第3の「ベージュ脂肪細胞」が発見されて話題となった。同細胞は、褐色脂肪細胞と同じように、脂肪を燃焼させて熱として体外に放出する役割を持った細胞だ。
ヒトの身体は、寒冷環境下においては一時的に交感神経が活性化することによって、褐色脂肪細胞やベージュ脂肪細胞が熱を産生して体温を保つようになっている。これは褐色脂肪細胞やベージュ脂肪細胞には、熱産生タンパク質である脱共役タンパク質「Ucp-1」を含むミトコンドリアが多いためだとされている。
また寒冷環境が続くと、ベージュ脂肪細胞が増加することがわかっている。そのほかにも運動やカロリー制限といった適度なストレスも、交感神経系を刺激しベージュ細胞を増やすことが知られている。
一方、カテキン重合物の摂取は、肥満に伴う高血圧・高血糖・脂質異常などのメタボリックシンドロームのリスクを低減させることが報告されてきたが、その作用機構は実はまだよくわかっていないという。
そこで研究チームは今回、ココア、リンゴ、ブドウ種子、赤ワインに豊富に含まれるカテキン重合物画分(フラバン-3-オール)の摂取によって誘発される脂肪の変化を調べ、またカテキン重合物が交感神経を活性化するのかどうかについての検討を行うことにしたという。
研究チームはこれまでの研究で、カテキン重合物の単回経口投与が脂肪燃焼の亢進と骨格筋血流の増加を引き起こすことを発見している。今回は、マウスの脂肪組織におけるカテキン重合物画分の反復投与の効果が調査された。マウスを2つのグループに分け、カカオ由来のカテキン重合物が2週間与えられることとなった。
カテキン重合物を与えられたマウスの皮下脂肪では、対象マウスとの比較において、ベージュ脂肪細胞の特徴である細胞サイズの顕著な縮小と脂肪滴の多房化が確認されたという。また、熱産生タンパク質UCP-1の発現も増加していることが明らかにされた。
さらに、カテキン重合物を単回経口投与した後のマウスの尿を採取し、交感神経活動亢進に伴って分泌されるノルアドレナリン・アドレナリンの排泄量が測定されたところ、カテキン重合物の投与により、これらの排泄量は顕著に増加することが見出されたという。
交感神経の活性化を評価するために尿サンプルを使用することは、臨床研究においてはまだ議論の余地があるとするが、ストレスに暴露されたマウスでは明らかに増加することが確認されている。今回の研究におけるカテキン重合物の経口投与は、適度なストレスを生体に与え交感神経活動亢進作用を示すことによって、心血管系や代謝系の維持・改善に有益であると考えられるという。
今回の研究結果は、カテキン重合物を食生活に取り入れることで、生活習慣病の予防に役立つ可能性を示唆するものであるが、カテキン重合物は経口摂取しても、体内に吸収されないことから、これらの効果がどのように発現するかについて理解するためには、さらなる研究が必要としている。