早稲田大学(早大)、茨城大学、芝浦工業大学(芝工大)の3者は1月13日、光によって「光異性化」と「相転移」という2つの現象を発現する「サリチリデンアミン結晶」のねじれ変形を観察およびシミュレーションし、その変形機構を明らかにすることで、光で超弾性変形が起きることを見出したと発表した。
同成果は、早大の谷口卓也准教授、茨城大学の倉持昌弘助教、芝工大の重宗宏毅准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の化学全般を扱うオープンアクセスジャーナル「Communications Chemistry」に掲載された。
有機分子からなる結晶材料である「有機結晶」は、硬い金属材料と柔らかい高分子材料の中間的な力学特性を有することが知られており、近年、柔軟に変形できることがわかってきたことから、その柔軟性を活かした変形や物性に関する研究が進められるようになってきたという。
有機結晶の柔らかさの例としては、力を加えると超弾性変形という特殊な変形が誘起される場合などがあり、有機結晶における新しい力学応答として、注目を集めているという。また、光や熱などの外部刺激を用いることで構造が変化し、変形や力を発生させるという特徴を活かし、新しい駆動原理のアクチュエータとしての応用も期待されている。
そうした中、研究チームはこれまでの研究から、光反応性のサリチリデンアミン結晶が、光による光異性化反応に加え、相転移を発現することを報告していた。光によって起こる特異な相転移現象は「光トリガー相転移」と命名されており、同現象によってサリチリデンアミン結晶がねじれを伴った複雑な変形挙動を示すことまでは確認済みであったという。
しかし、変形挙動が複雑であるがために、定量的な変形の評価や変形機構の詳細理解には至っていなかったとする。そこで研究チームは今回、サリチリデンアミン結晶のねじれ変形を解析し、変形機構を詳細に解明することを目指すことにしたという。結晶のねじれの評価は、顕微鏡で結晶の先端方向から変形挙動の観察が行われ、変形を「ねじれ角」と「変位」に分解することで実施された。
また、ねじれ変形の発生機構を理解するため、変形シミュレーションも活用。光異性化と相転移を反映した変形モデルを構築する必要があることから、光異性化の層と相転移の層の厚みが光照射時間によって変化する動的多層モデルが構築された。
同モデルを使って変形シミュレーションが実施されたところ、複雑なねじれ変形を再現することに成功したという。さらに、各層の厚みを変えた上でのシミュレーションも実施され、結晶中での光異性化と相転移の進み方が明らかにすることができたとした。
これらの結果から、サリチリデンアミン結晶の変形は光照射下で5~10秒で定常状態となり、光照射を止めると約2分で元の形状に戻るという繰り返し性があることが確認されたとする。これまでの研究から、波長365nmの紫外光を用いると、サリチリデンアミン結晶の光異性化反応が起きることがわかっており、変形には今回も同波長の紫外光が用いられた。
また、結晶中の動的挙動を解析したところ、結晶中では、光異性化反応によって発生する応力と、相界面によって発生する応力の2種類があるが、相界面による応力が結晶構造の動的挙動に影響していることが判明したともする。
サリチリデンアミン結晶は、これまでの研究により力を加えることで超弾性変形が誘起されることはわかっていたが、光によって超弾性変形が発生することが今回新たに発見されることとなった。これは、1つの結晶でねじれ変形と超弾性変形が起きるという特異な光応答現象ということができるという。
なお、研究チームでは、今回の研究成果を基にすることで、光によって超弾性変形を発現する光応答性材料の開発が期待されるとしており、それにより光によって操作できるセンシングやスイッチング、メモリ、アクチュエータの開発につながる可能性があるとする。また、光で超弾性変形が起こる法則性を見出すために、このような現象を示すほかの有機結晶材料を探索していく必要があるともしており、その際には光反応性や相転移の有無が重要となるため、有機結晶に対するマテリアルズ・インフォマティクスにより候補となりうる結晶を探索することが有用と考えられるとしている。