南極のアザラシは秋に外洋から沿岸に流れ込む暖かい海水(暖水)を上手に利用して餌を確保している―。こうした観測調査結果を国立極地研究所と北海道大学の研究グループが明らかにした。第58次南極地域観測隊(2016年~2018年)による観測の一環として、昭和基地周辺に生息するウェッデルアザラシに負荷の少ない記録計を取り付けるなどして調べた成果だという。
環境省によると、南極にはヒョウアザラシ、ウェッデルアザラシなど5種のアザラシとナンキョクオットセイという種のオットセイが生息。これら6種はアザラシ保存条約で保護されている。世界のアザラシの約60%が南極海に生息している。このうち昭和基地付近に生息しているのは、主にウェッデルアザラシ。体長はオスが約280センチ、メスが約330センチで、体重は400〜450キロ。体色は季節により変化し、春は全体的に茶褐色になり、その他の季節は黒褐色に淡黄白色の斑紋が全身に見られる。繁殖期の春~夏は氷上に出現するが、冬は主に氷下で生活する。
極地研究所生物圏研究グループの國分亙彦助教や北海道大学低温科学研究所の青木茂准教授ら若手研究者らで構成する研究グループは、2017年の秋(3月~4月)から春(9月)にかけて8頭のウェッデルアザラシに最新の水温塩分記録計(CDTタグ)を取り付け、これまでよく分かっていなかった秋以降の沿岸の海洋環境調査を実施した。
CDTタグは、位置情報のほか、塩分と水温を計測し、同時に潜水深度を記録してデータを衛星通信で送信する。機器の重量580グラムは調査対象アザラシの体重(平均326キロ)に比べて軽く、一定期間後アザラシの体毛の抜け替わる時期に体毛と共に脱落するためアザラシへの負荷は少ないという。
研究グループが得られたデータを分析した結果、高温低塩分の水が秋に沿岸の多くの浅い海底(深さ100~150メートル)で見られ、冬に向けて季節が進むと深い海底(最大深さ400メートル)まで沈み込んでいたことなど、南極沿岸の動的な海洋環境の実態が判明した。
またアザラシがどの程度効率良く餌を確保していたかを示す指標を潜水深度の記録から計算し、餌とり行動にどう影響していたかを分析した。すると、アザラシは低温低塩分の水よりも高温の低塩分、高塩分の水の中で効率的にオキアミ類やイワシ類などの餌を得ていたことが明らかになった。
南極沿岸には海氷に覆われた海域でもアザラシやペンギンなど多くの大型動物が生息している。それを可能にする要因の1つとして、外洋の深層からの栄養塩に富んだ暖水の流入に伴う豊富な生物の存在が指摘されていた。しかし、厚い氷のために船で海洋調査をすることが難しく、極寒の海域の大型動物がどのような環境下で生息できているのかはよく分かっていなかった。