野村ホールディングス(野村HD)、野村證券、情報通信研究機構(NICT)、東芝、NECは1月14日、大容量の金融取引データの量子暗号による高秘匿通信・低遅延伝送の検証実験に成功したと発表した。
5者は、今後の量子暗号技術の社会実装に向けて、高速大容量かつ低遅延なデータ伝送が厳格に求められる株式取引業務をユースケースとした量子暗号技術の有効性と実用性に関する共同検証を2020年12月に開始、実際の株式トレーディング業務において標準的に採用されているメッセージ伝送フォーマット(FIXフォーマット)に準拠したデータを大量に高秘匿伝送する際の、低遅延性および大容量データ伝送に対する耐性について検証を行った。
その結果、今回の想定ユースケースにおいて、「量子暗号通信を適用しても従来のシステムと比較して遜色のない通信速度が維持できること」「大量の株式発注が発生しても暗号鍵を枯渇させることなく高秘匿・高速暗号通信が実現できること」の2点を確認できたという。
今回の検証は、光の粒である光子に鍵情報をのせて暗号鍵共有を行う量子鍵配送(Quantum Key Distribution:QKD)装置からの鍵を使った暗号化装置が用いられた。
NICTが2010年にQKD装置を導入して構築した試験用通信ネットワーク環境 「Tokyo QKD Network」上に、投資家と証券会社を模した金融取引の模擬環境を整備し、実際の株式注文において標準的に用いられるメッセージング・データのフォーマット(FIXプロトコル)に合わせた模擬データを生成するアプリケーションを野村HD・野村證券で開発したという。
伝送するメッセージの暗号化には、ワンタイムパッド(One Time Pad:OTP)方式、Advanced Encryption Standard(AES)方式の2種類を採用。AES256の実装にはソフトウェアベースでの実装方式(SW-AES)と、NECが開発したより低遅延性に優れる回線暗号装置(COMCIPHER-Q)を用いた方式の2種類を採用し、高速OTP、SW-AES、COMCIPHER-Qという計3種類の方式による暗号化方式を用いて、それぞれの通信性能の測定・比較検証を行った。
今回の検証ではQKD装置からの鍵の枯渇はなかったが、QKD装置からの鍵の枯渇が懸念される場合は、鍵消費量の少ない方式に切り替えることで、ビジネスの継続性を維持することが可能だという。