英ロンドンに本拠を置く多国籍情報提供企業Informaの半導体・ディスプレイなどのハイテク市場調査部門であるOMDIAは2021年11月末、「Global Semiconductor Day Fall 2021:半導体業界の今を解く鍵 〜2022年展望 - 市場・サプライチェーン・輸出管理の動向〜」をオンラインで開催した。

パワー半導体を中心とした中国の台頭を予想

セミナー冒頭、OMDIAシニアコンサルティングディレクターの南川明氏が「米中摩擦、カーボンニュートラル、DX化によるエレクトロニクス産業の変化」と題して基調講演を行った。

同氏の話を要点としてまとめると、以下のようなものとなる。

  • メタバース:フェイスブックがメタプラットフォームに社名変更し、メタバースが注目されているが、これによりデータセンターへの投資が拡大し、半導体需要は再び成長期に入る。
  • 海外進出:各国政府が半導体産業のデカップリングを進めているが、日本企業は海外ビジネスを広げる事が重要である。
  • 中国:新型社会インフラ投資による半導体需要拡大が期待されるが、パワー半導体を中心に中国企業の台頭が予想される。
  • GX投資:増え続ける電力需要が逼迫するのはこれからであり、500兆円を超える各国のグリーン関連投資が半導体需要をさらに押し上げていく。ここに大きなビジネスチャンスがある。
  • ITリモート活用:SDGsとITの利活用の両立が出来るためコロナ終息後もITリモート活用を進める企業が多くなる。

半導体不足は2022年上期におおむね解消へ

次に、経済安全保障政策について経済産業省の貿易経済協力局 貿易管理部 技術調査室長である田中伸彦氏が登壇し、「従来からの米中対立に加え、新型コロナウィルスによりさらに顕在化したリスクに対応するため、今後の経済産業政策は安全保障の概念をさらに拡張しつつ、新たな国際協調の下で、日本のレジリエンス強化に向けた取り組みを一層推進する必要がある。日本政府は政府全体の経済安全保障に関する体制整備(国家安全保障局経済班設置等)の一環として、省内横断的な組織として経済安全保障室を設置している。日本の産業にとって重要な技術を特定して維持強化し流出防止するための対策等に関する総合調整を行う」と述べた。

また、OMDIAのコンサルティングディレクターである杉山和弘氏は、「半導体不足どうなる!? 2022年の業界トレンド予測」と題した講演を行い、「半導体不足は2022年上期にはおおむね解消されるが、年後半のデータセンター分野の投資次第では再びメモリなどの不足感が高まる可能性がある。ファウンドリ各社の生産キャパ拡張計画は主に300mmウェハ向けであることから、200mmウェハファブに起因する生産キャパ不足は続くこととなり、自動車、サーバ、SSD、エネルギーインフラ関連の電源用パワー半導体は需要変動で今後も不足しやすい」と述べた。

日本勢は中国に積極投資すべきか?

キヤノングローバル戦略研究所(キヤノン戦略研)の研究主幹である瀬口清之氏が「混迷の米中対立と中国経済の展望」と題して講演を行い、米バイデン政権の中国・台湾政策を解説。米中対立に関して日本と欧州の立ち位置には共通点が多いことを指摘した

ただし、中国への投資に積極的な欧州に対し、日本企業はリスクを懸念して慎重な姿勢で、政府とともに情報収集力の不足、判断力の低下といった部分の改善が喫緊の課題であることも指摘している。

そして、「欧米のグローバル企業は、コロナ禍においても中国市場を重視し、積極的な投資姿勢を維持している。米国は台湾問題をめぐり「1つの中国」原則を軽視する形で中国を刺激し、武力衝突リスクを高めている。日本企業の本社経営層、中国の現地最高責任者の中国市場に関する理解は以前に比べて低下傾向にある」と述べた。その原因として「中国への出張の不足」、「中国での勤務経験の不足」、「中国語の能力不足」を挙げている。日本勢も、中国市場に関する情報収集を進め、欧米企業のようにリスクをとって中国市場に積極的に投資すべきだとした。

技術の流出に注意しつつ積極的な海外での事業展開が必要

最後に、日本半導体製造装置協会(SEAJ)の専務理事である渡部潔氏が、「装置市場展望と輸出環境」について以下のように解説し、SEAJとしての見解を述べている。

  • 日本製半導体製造装置の販売高が2021年度、2022年度ともに過去最高を更新する見通しである。そして2030年代までのトランジスタ技術の方向性が固まってきたことで、研究すべき項目が明確化されてきたので、装置・材料が二人三脚で今後も研究開発を続けていく必要がある。
  • 経済安全保障の観点からは、生産能力を持つことがサプライチェーンの安定化に必須であり、技術流出の防止などに取り組みつつも、世界市場に向けて積極的にビジネスを展開し、日本企業が世界各国の半導体産業の必須パートナーとなることが重要である。
  • 2020/21年ともに 中国の半導体製造装置投資は世界の約3割を占め世界最大級の市場となった。米国企業、日本企業にとって中国は重要市場であり、積極的な事業展開が望まれる。
  • SDGsの実現に向けて、半導体の利用が必須であり、SDGsは半導体需要を押し上げる。
  • 経済安全保障の安定化には半導体生産能力を持つ事が必要であり、WTOに抵触しない範囲で政府支援が必要である。