精子バンク利用による非配偶者間体外受精・顕微授精を開始
不妊治療専門クリニックである、はらメディカルクリニック(東京都渋谷区)は、精子バンク利用による非配偶者間体外受精・顕微授精の開始ならびに、医院が有する生殖補助医療用精子バンクにおいて、精子提供者の一般公募を1月17日より開始することを発表した。
これにより、無精子症などの精子提供が必要な夫婦は、人工授精(AID)よりも妊娠率の高い体外受精(IVF-D)を非匿名の提供精子で選択できるようになるという。
これまで、無精子症などの男性不妊の場合に行う提供精子による生殖補助医療は、日本産科婦人科学会の会告のもと、人工受精のみが行われてきた。しかし、人工受精は、1回当たりの妊娠率が4.3%(日本産科婦人科学会令和2年度倫理委員会 登録・調査小委員会報告)と低いという課題があったという。
一方で、妊娠率が33%と高い(日本産科婦人科学会ARTデータブック2019)体外受精は、提供精子による生殖補助医療として国内では行えないため、患者は海外で治療を受ける必要があるなど、患者の負担が高いという課題があった。
加えて、提供精子による生殖補助医療を行える施設は全国に12件しかなく、その中でも提供精子の不足などにより十分に治療を提供することのできる施設はさらに限られており、そういった背景から、SNSなどを通じて個人間での精子提供が行われる実態が問題視されていた。
そこで、「提供精子を用いた人工授精に関する登録施設」である同院は、患者が国内で正規の一般的治療法として、提供精子の体外受精を選択できるようにする。
現時点でも数多くの夫婦が提供精子の生殖補助医療を希望しており、安定的な治療の提供に多くの精子が必要となることから、一般公募による精子提供も併せて開始したとのことだ。
はらメディカルクリニックの宮﨑薫 院長に一般公募の開始によって今後期待できることについて伺うと「広く精子提供者を募集することで、精子提供者不足は解決し、陰で行われているSNSでの精子取引が減ると思われます。また、精子提供者の条件も知られることで、これだけ多くの感染症検査や遺伝病の確認が必要なのだと夫婦側が認識することで、安易なSNSでの精子取引は選択しなくなると思います」と語ってくれた。
また、宮﨑院長は「精子がない人を、精子がある人が助けるという構図は、献血や臓器提供と同様のホスピタリティのマインドの上になりたっています。提供をする側もされる側もこれを隠すのではなく、素晴らしい助け合いであることの認識が広がることを期待しており、当院の取り組みがこの一助になればと思っております」とも述べた。
精子提供者については、年齢や生活、感染症、遺伝リスク、精子所見、生命倫理観といった諸条件を審査基準とし、一般男性より広く募集するという。
子どもの権利を守るため、非匿名での精子提供を可能に
また、これまでは匿名で行われてきた精子提供を、精子提供者の同意が得られた場合に、非匿名で行うことも可能とする方針だ。これは、子どもが自らの出自を知る権利を保全するためとしている。
同院ではこれまで、日本産科婦人科学会の会告のもと匿名で精子提供者を募ってきたが、匿名精子で誕生した子どもが、隠されていた自らの出自を知ることでアイデンティティの崩壊を起こすなどの事例もあったという。
そこで同院では、非匿名での登録も可能とすることで、子どもが18歳以上になり自分の出自を知りたいと思った時に、精子提供者と1回以上接触(メール・電話・手紙・直接会うのいずれか)することができる状態とし、子どもが自らの出自を知る方法を選択できる状態とするとのことだ。
なお、非匿名提供精子を使用した場合であっても、生まれた子どもが提供者に接触する前に同院でのカウンセリングや倫理委員会での審議を行い、子どもと同院の間で精子提供者の生活や権利を守る契約を設けるなど、非匿名精子提供者の権利保全も同時に行うとしている。
はらメディカルクリニックの宮﨑薫 院長は提供精子の体外受精治療を受ける条件について「体外受精の治療を受けられる条件には、さまざまなものがありますが、今回重要なのは子どもへの真実告知を行う用意ができているかどうかです。この治療は“子どもへの真実告知を行うことが条件”となります。当院では、真実告知を何歳からどのように行うのかについてカウンセリングで確認します。その際、夫婦の真実告知への取り組みが不十分と判断された場合にはお受けいただけません」と語った。