元来、長距離移動に伴う必要な生活行為であったキャンプは、いつしか自然や行為そのものを楽しむレクリエーションへと変化を遂げた。
日本では1990年中ごろにオートキャンプの最盛期を迎えた。この第一次キャンプブームは都市住民のアウトドア志向の高揚、見学型レジャーから体験・参加型レジャーへの志向変化、仕事から家族優先への価値観の変化などさまざまな要因が作用したと考えられるが、一説には利便性や快適性を前提とした「手軽な自然」志向の高まりが牽引したと論じられている。
その後、1990年後半から2000年中ごろにかけてキャンプブームが収まるものの、2013年にはオートキャンプへの参加人口は増加に転じ、近年では第二次キャンプブームとして再度注目を集めている。
近年みられるキャンプは、従来の利便性や快適性を追求する「手軽な自然」に限定されない多様化が進んだキャンプだ。
例えば、InstagramやYou TubeなどのSNS投稿で人気を得ている「おしゃれキャンパー」の出現、ひとりでキャンプを楽しむ「ソロキャンプ」、アニメ「ゆるきゃん△」の放映に感化された若年層のキャンパーなどがある。
かくいう筆者も「ゆるキャン△」の放映によってキャンプに興味をもった人間である。
そしてゆるキャン△の視聴中に興味深い内容があった。
シリーズ1の第7話での火起こしに苦戦したシーンである。
これはバーベキューの炭に備長炭を使用したことが原因であったが、意外と現実キャンパーの中にも備長炭で火起こしをして、苦戦したという人もいるのではないだろうか。
キャンプを行う上で「木炭」は非常に重要な材料であるが、普段、私達の生活圏に木炭が介入してくることは稀だ。木炭に種類が存在することや火の燃料以外の用途について考えることなどまず無い。したがって備長炭でのミスも十分有り得る。
そこで今回は、意外と知らない「木炭」の種類や性質について紹介したい。
木炭の種類
木材は樹種によって多少ばらつきがあるものの、炭素(C)が全体重量の約50%を占める。
木材を酸素不十分環境下で燃焼、すなわち熱分解させていくと、木材中の酸素・水素の割合が減少し炭素含有率が高くなる。
この炭素含有率が高くなっていく過程を炭化と呼び、炭化が進行した木材が木炭である。 木炭の種類は「黒炭」と「白炭」に大別することができ製造方法が異なる。なお、ゆるキャン△で登場した備長炭は白炭の一種である。
黒炭は炭化過程で窯内温度を400℃程度に保ち、煉らし(ねらし)※1の温度は800℃となる。また、煉らし終了後は窯口、排気口を閉じ窯内で消火させる窯内消火で行う。
一方白炭の場合、炭化過程の窯内温度は黒炭と大きく違わないが、煉らし温度は1000℃~1200℃程度の高温で行い、終了後は窯から木炭を取り出し灰と砂の混合物を覆いかけ消化する窯外消火で行う。消火の際、木炭に灰が付き白色になることから白炭と呼ぶ。
炭化温度が高いほど揮発分※2が減少し、相対的に炭化含有率が高くなり、さらに800℃~1000℃で木炭の稠密化が発現する。そのため、800℃~1000℃を超える白炭は硬く密な木炭となり、黒炭は白炭と比較し細孔が肉眼で確認でき、やわらかな木炭に仕上がる。
また、揮発分が多い木炭は着火の際、煙や炎を出して燃焼する。
ゆるキャン△で火起こしに苦戦した原因はここである。
白炭は黒炭より揮発分が少なく燃焼しにくいため着火に時間がかかる。したがって、バーベキューなどで要求される「火起こしの簡便さ」においては黒炭に軍配が上がる。
一方、白炭は黒炭より着火しにくいが燃焼速度は遅く火は長持ちし、火のコントロールがしやすい。
意外と知られていない木炭の吸着能や農地への適用
木炭の意外と知られていない性質の1つに吸着能がある。
住宅の床下などに木炭加工製品を敷設して吸湿効果を検証したものや、木炭調湿性能についての研究報告がある。
これは住宅の耐久性を向上させる目的のほか、建築廃材の再利用、森林資源の有効活用など低炭素社会実現に向けた側面も併せ持つ。
また他にも農地や農業生産への効果も報告されている。木炭は地力増進法に基づいて土壌の透水性改善を主な効果として用いられ、サツマイモの生育が促進されるなどの報告もある。
これらは木炭が持つ多孔質※3 という性質が関係している。木炭には無数の穴が存在し、マクロ孔、メソ孔、ミクロ孔に区別される。
マクロ孔(細孔直径:>50nm)、メソ孔(2nm~50nm)、ミクロ孔(<2nm)はそれぞれ発揮される機能が異なる。諸説あるがマクロ孔は微生物や菌類の定着や繁殖などのバイオ機能を担い、メソ孔は触媒や薬剤の担持や高分子の吸着、ミクロ孔は強力な吸着作用を発揮する。
また木炭の多孔質性を物語る数字がある。
それは表面積である。
木炭の表面積は1gあたり200m2~500m2にもなる(比表面積)。京間で換算すると約109畳~274畳である。
この驚異的な比表面積が、意外と知られていない木炭の性質を支えている。
いかがだっただろうか。
材料を最大限活用するには、当然その材料特性を把握した上で活用する必要がある。木炭も例外ではなく、扱う者はその特性を把握しておくことに越したことはない。冒頭でも述べた備長炭によるミスも、木炭の種類や特性を把握することによって未然に防げた可能性もある。
ぜひともキャンパーはじめ木炭を使用する人は、本記事を参考にしていただきたい。
文中注釈
※1煉らし(ねらし):精錬、焚き上げとも呼び、炭化終了間際に、短時間窯内に空気を多く入れ燃焼させる工程
※2揮発分:木炭の場合、炭素以外の可燃物成分
※3多孔質:表面に無数の穴があいている性質