医薬品やサプリメントとして使われている2つの成分を合わせた点鼻薬が、アルツハイマー病をはじめ複数のタイプの認知症に高い効果を発揮することをマウスを使った実験で確認した、と大阪市立大学などの研究グループが発表した。認知症には対症療法しかない中で、安全な予防薬の実現が期待されるという。
研究グループによると、認知症はアミロイドβ(ベータ)やタウと呼ばれるタンパク質が脳内に蓄積し、分子が数~数十個集まった状態「オリゴマー」となって発症するとみられる。研究グループは1994年、結核やハンセン病などの治療に抗生物質として使われる「リファンピシン」に、オリゴマーを脳から除去し認知機能を改善する効果があることを明らかにした。ジェネリック医薬品で安価だが、肝障害などの副作用が生じる難点があった。
研究グループは、欧米で抗酸化サプリメントとして使われる天然のポリフェノール「レスベラトロール」に、肝臓を保護する作用があることに着目。リファンピシンの副作用を抑える可能性があるとみて、この2つの合剤を作って実験した。神経細胞は自ら、傷んだ神経細胞を修復する物質を作るが、レスベラトロールがこれを増強することが報告されている。またこれまでの経験から、この合剤を口でなく鼻から投与すれば脳組織に到達しやすいと考えた。
実験ではアルツハイマー病、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症のマウスに合剤を週5日、計4週にわたり鼻から投与。マウスが水中で足が届く踏み台に避難する「モリス水迷路」で所要時間を調べる実験や、脳の組織の顕微鏡観察などにより、認知機能や病理を調べた。
その結果、合剤を投与したマウスは片方の成分しか与えない場合と違い、避難の所要時間が学習により正常に近いレベルで日々短縮し、高い認知機能を示した。オリゴマーの除去や、肝障害の目印の血中レベルが正常値を保ったことも確認。またレスベラトロールのみの場合と同様、神経細胞を修復する物質を増強した。
こうした結果から研究グループは、合剤が片方の成分のみの場合に比べ相乗効果を発揮し、有効性と安全性が高いと結論づけた。今回の投与量をヒトに換算すると、抗生物質として処方されるリファンピシンに比べかなり低用量で効果があったことになる。
リファンピシンにはオリゴマーの結合を解く働きや、抗酸化や抗炎症の作用がある。一般的には内服薬だが、鼻から投与すれば一部は血液を介さず脳に到達できる。内服では肝臓で代謝されてしまう上に、血液から脳組織への物質の移動を制限する「血液脳関門」の仕組みにより、ほとんど脳組織に到達しないという。レスベラトロールも認知症に対する効果が期待されていたものの、内服ではやはり効果がなかった。
認知症患者は世界的に増加しているが、有効な治療法はまだない。認知症では発症の20年以上前から脳に異常が生じ、発症時には既に多くの神経細胞が消失している。研究グループは神経細胞が死に始める前からの診断、予防が重要とみている。
この合剤は認知症の7割ほどを占めるアルツハイマー病のほかレビー小体型、前頭側頭型認知症の予防効果が期待できるという。点鼻薬の開発に向け、研究グループのベンチャー企業が臨床試験の準備を進めている。実現すれば、認知機能が正常であるうちにPET検査でアミロイドやタウなどを確認し、予防薬を処方するといった活用が考えられる。鼻の中に噴霧する液体または粉末という。
研究グループの大阪市立大学大学院医学研究科の富山貴美研究教授(認知症病態学)は「この予防薬は根本療法となるもので、早く社会に実装させたい。既存のものの組み合わせで安全性が高く、早めに臨床試験に入れそうだ。長期に投与するが、ジェネリック医薬品とサプリメントなので安価に調達できるのでは」と述べている。
研究グループは大阪市立大学と、同大発のベンチャー企業であるメディラボRFPで構成。成果はスイスの神経科学誌「フロンティアズ・イン・ニューロサイエンス」に昨年12月13日掲載され、同大が24日に発表した。
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