昨年11月4日に米IBMからの分社化が完了し、独立した企業としてニューヨーク証券取引所に上場したKyndryl(キンドリル)。今回、日本市場における事業の方向性について、昨年の振り返りもふまえつつ、キンドリルジャパン 社長の上坂貴志氏に話を聞いた。

  • キンドリルジャパン 社長の上坂貴志氏

上坂貴志(うえさか たかし)

キンドリルジャパン合同会社 社長


1994年に日本アイ・ビー・エム株式会社に入社。エンジニアとして金融機関のシステム開発・保守を担当後、グローバル・ビジネス・サービス(GBS)事業本部のサービス・エクセレンスおよび品質リーダー。マネージド・デリバリーとソリューショニングを通じて、イノベーションを実現するための戦略的変革を支援。


2010年以降は金融セクターのリーダー、アプリケーション開発と保守の事業リーダー、保険セクターのリーダーなど、GBS内で複数のリーダーシップを経験。2020年2月にグローバル・テクノロジー・サービス(GTS)事業本部のインフラストラクチャー・サービスの事業部長に就任、2021年9月にキンドリルジャパン合同会社発足にあたり社長に就任。一般社団法人 プロジェクトマネージメント学会 副会長も務める。

攻めと守りの2021年

--昨年11月にIBMからの分社化が完了し、独立した企業としてNY証券取引所に上場しました。まず、昨年1年間を振り返ってみていかがでしょうか?

上坂氏(以下、敬称略):攻めとして前向きに取り組むことと、守りとしてIBMからの分社によるお客さまの不安・懸念への対応など、攻めと守りの両方に注力した1年でした。

キンドリルという社名は新しいですが、IBMのGTS(グローバルテクノロジーサービス:金融機関、製造業、通信事業者などのミッションクリティカルシステムを利用できるように信頼性の高いIT基盤のシステムやサービスの構築・運用を手がけていた)ブランドとして、IBMだからお願いしていた側面もあることから、ここに対してはキンドリルでも同じようにやり遂げるという体制の整備とともに、決意を示しました。

一方でキンドリルに社名変更したことで、何が変化したのかという点は時間の経過とともに、意味のあるものだと実感してくるようになりました。

昨年の会見でも言及した6つのプラクティスエリア(クラウド、メインフレーム、デジタルワークプレイス、アプリケーション&AI、セキュリティ&レジリエンシー、ネットワーク&エッジ)などは、今後社会で支えていかなければならない領域であり、時代が変化している証左です。

そのため、“攻め”の部分という意味ではお客さまの課題点を当社が対応できるのか否かということにかかっているのだなと非常に感じました。

クラウド化は言うは易しで、本格的に取り組むとなるとミッションクリティカルシステムとのつなぎ込みや、クラウドのカバー範囲の決定、運用のサポートなどがあります。日本では、欧米のように顧客側にIT人材を多く有しているわけではなく、ベンダー任せにしてきた経緯もあるためお客さまに体力が必要な部分はサポートします。

また、IBM Cloudだけではなく、AWS(Amazon Web Services)やMicrosoft Azureをはじめ、マルチクラウドに対するサポートのニーズもあることから、ベンダーを超えて独立した形でやることに意義を感じています。

メインフレームもIBMが構築したものもあれば、他のベンダーが構築したものもあるためサイロ化しており、障害に対する可視化や経営層への判断情報の提供なども含めて、メインフレームをレガシーだと片づけるのではなく、運用のスキームの見直しや人口減少に伴う自動化の活用などに対応しなければなりません。

キンドリルの設立はIBMの分社化戦略であると同時に、IBMと二人三脚で取り組んだこの1年間に意味があったと思います。

IBMとの関係性は

--IBMとは今後どのようになるのでしょうか?

上坂:IBM、キンドリル双方の見方に加え、領域・顧客ごとに必ずしも一色に染まるものではないと考えています。私自身はIBMのGBS(グローバルビジネスサービス)での在籍が長かったのですが、昨年2月にGTSに異動しました。

GTSへの理解が深まった点として、システム運用やインフラ構築はその分野のエキスパートの存在が必須であり、開発者が開発に専念できるのは運用を別のチームに任せているからといっても過言ではありません。

以前、アプリケーション開発のプロジェクトをインフラ運用チームに引き継がずに、開発チームが担当するということがあった際は、いい意味ではシームレスだったのですが、運用で何か発生したときはチーム全員が引きずられてしまいました。

そのため、故障時にインフラを起点にリカバリすることが多いことから、専門性による業務の分担は重要です。IBMとキンドリルはお互いがリスペクトしているため、簡単にお互いの領域に手を付けられるとは考えておらず、それだけミッションクリティカルの運用・開発は難しいものです。

日本はエンジニアが不足しているため、お互いのプロフェッショナル領域を尊重し合うことの方が成長していくのではないかと思います。

こうした状況をふまえると、マルチベンダーにアドレスできるスキルを身に付け、ITインフラに関してオープンなプロであるべきです。IBMがコンサルティングファームでも大手SIerでもない中で貢献するためには、お客さまごとの業務に精通しなければなりません。そのため、不足している領域は補い合い、取り合うものではないと感じています。