京都大学(京大)は1月5日、数秒という速さで電気分解を完了できる新たな電解フロー装置の開発に成功し、医薬品およびそのほか有用な化合物について、電気分解から合成までトータルで20秒弱という短時間での迅速合成を達成したと発表した。
同成果は、京大工学部 合成・生物化学専攻の永木愛一郎准教授、同・宅見正浩研究員、同・阪上穂高大学院生らの研究チームによるもの。詳細は、独化学会の刊行する公式学術誌「Angewandte Chemie International Edition」にオンライン掲載された。
近年、環境保護への関心が高まるに伴い、有害な廃棄物が発生する化学試薬を電気(=電子)で置き換えることができ、廃棄物の低減を可能とする、電気分解を利用した有機合成(有機電解合成)に注目が集まるようになっている。
しかし、現在、一般的に電気分解に使用されている「バッチ型電解装置」では、装置容量に対する電極の大きさに制限があり、通常は数時間ほどの反応時間が必要となるという課題に加え、電気分解で発生した反応中間体も不安定で短寿命なものが多く、通電中の分解が反応開発に制限を与えてることとなっていたという。そこで今回、研究チームは、より短時間で電気分解を行える機構を備えた新規電解フロー装置の開発を試みることにしたという。
具体的には、溶液を流しながら電気分解を行えるように内部の流路に電極を設置する工夫を備えることで、4秒という速さで電気分解を完了させることが可能になったという。
また、電気分解により発生した「不安定炭素カチオン種」も速やかに別の場所へ運ばれ、失活してしまう前に次の反応に利用することができるようにもなっているため、従来手法では困難とされてきた不安定炭素カチオン種を用いた分子変換反応が可能になったという。
さらに、同装置を用いることで、医薬品「メチルフェニデート前駆体」の連続的な合成にも成功。この反応では、窒素原子を持つ反応性の高い炭素カチオン種を高速に発生させ、反応へ利用することで、電気分解を含めた一連の反応を19秒で完結させることができることが確認されたとのことで、こうしたフロー反応を継続することにより、望んだ量の化合物を望んだタイミングで合成する「オンデマンド合成」にも適用可能であることが示されたとしている。
なお、研究チームは考案された機構について、原理上、今の報告した炭素カチオン種の発生以外にもさまざまな反応へ適用することが可能であり、有機電解合成のブレークスルーにつながると期待されると説明しており、今後、この新規電解フロー装置を用いた新規分子変換反応の開発と、さらなる改良による製造プロセスへの導入を目指すとしている。