「家のつくりやうは、夏をむねとすべし」
古典の時間でおなじみの吉田兼好の作品「徒然草」の一節である。これは日本の住居建築について述べた一節であり、「住居は夏を考慮して建築すべき」と解釈されている。
日本の気候特性を的確に捉えた有意義性の教えであり、伝統的な日本家屋のほとんどは夏期の高温多湿に備えた開放的なつくりになっている。
しかし、技術発展に伴って消費者のニーズやライフスタイルなどが変化し、現代では快適性、経済性、環境配慮の三者共存をはかる住まいづくりが基本となりつつある。いわば高気密高断熱住宅の省エネルギー性能を生かす閉鎖的な住まいづくりである。
そんな開放型から閉鎖型に変化を遂げつつある住まいづくりの中でも、日本人はある住宅部位のみ逆行した変化を望んでいる。
それは“窓”である。
窓はできるだけ小さくしたほうが住宅の気密・断熱性が向上するが、日本人はなぜか住宅の窓を大きくしたがる。
今回は、そんな大きい窓を好む日本人にとって意外と知られていない真実について紹介したい。
それは、日本は「窓の後進国」ということである。
住宅の熱収支からみた窓の重要性
まずは窓の“機能面”について紹介したい。室内環境は窓(ガラス+サッシ)の性能によって大きく変化する。冬期では窓からの熱流出が58%、夏期では窓からの熱流入が73%となっており、まさに熱の玄関口ともいえる。
また冬期の場合、室内の暖かい空気が窓に触れて冷やされ、床面に下降する「コールドドラフト」が発生し、足元が冷たいといった不快感を覚えるだけでなく人体にも悪影響を及ぼす。
したがって、室内環境を向上させたいのであれば、室内環境設備を充実させるより、まず窓の性能を向上させる方が良いだろう。
世界の窓性能基準
窓の性能にはよく熱貫流率(U値)で評価される。熱貫流率とは、壁体などの熱の伝わりやすさを表す数値で、数値が小さいほど断熱性に優れている。
日本の窓性能は、省エネ建材等級によって分けられる。
窓の性能表示はブルーラベルで表示され、最も性能が高いのが熱貫流率2.33以下の星4である。
この区分はあくまで窓の性能を可視化したものであり、日本は窓の性能に最低基準を設けていない。
日本が「窓の後進国」たる所以はここにある。
実は世界では、先進国や欧州を中心に窓の最低基準を設けている。さらにその最低基準は、日本で最高等級の熱貫流率2.33以下の国がほとんどである。
上図は各国が定める窓の断熱性能最低基準である。また、韓国では地域によるが戸建住宅の場合2.4〜3.4、中国でも韓国同等の基準が設けられている。
各国と比較すると日本の窓がいかに出遅れているのかが分かる。
日本のサッシ事情
日本が海外と比較し窓の性能が低い理由として、サッシ材料の違いが挙げられる。
サッシ材料は大きくアルミ、樹脂、木材に分けられる。アルミの熱伝導率※1(W/m·K)は175W/m·K、樹脂は0.18W/m·K、木材が0.09〜0.19W/m·Kとなっている。
熱伝導率を比較すると分かるが、樹脂、アルミと比較しアルミの方が圧倒的に熱を伝えやすい。したがってアルミサッシの窓は樹脂サッシや木製サッシの窓と比較し性能が劣る。
以前の日本ではアルミサッシが主流であり、多くの住宅に採用されていた。今もなお改修を施していない既存住宅の多くがアルミサッシだ。
一方欧州では、樹脂あるいは木製サッシが主流だ。米国ではアルミサッシを禁止している州すらある。
日本が窓の後進国となった根底には、このアルミサッシの普及が大きく影響している。
しかし現在、遅れをとっていた日本でも樹脂サッシの普及が徐々に進んでいる。日本サッシ協会が行った木造新築住宅のサッシ材質調査では、樹脂サッシの普及率は22.3%と着実な伸びをみせている。一方、アルミサッシは10%となっており、現在の新築住宅では樹脂サッシの方が普及している。
これまで窓の後進国として認識されていた日本だが、今後はその遅れを挽回する発展を期待したい。
徐々にその兆しは見えているものの、依然として欧州には遅れを取っているのが現状だ。政府はZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)※2 の普及を進めているが、ZEHに要求される窓仕様は省エネ地域区分1〜3地域は熱貫流率1.90以下、4〜7地域は熱貫流率2.33以下となっている。
また、森林大国である日本の国産木材利用促進の点からも、現在ごく僅かとなっている木製サッシも普及させたい。木材用途の拡大にも繋がり、逼迫する木材産業の救世主となる可能性もある。ハウスメーカーの中には木製サッシ導入に向けて生産体制を整えている企業もあり、今後の窓ぎわ事情も目が離せない。
文中注釈
※1:物質内の熱の伝わりやすさを示す物理量。数値が小さいほど物質内の熱は伝わりにくい。
※2:環境省が進める「外皮の断熱性能等を大幅に向上させるとともに、高効率な設備システムの導入により、室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネルギーを実現した上で、再生可能エネルギーを導入することにより、年間の一次エネルギー消費量の収支がゼロとすることを目指した住宅」のこと(出典:環境省)