岡山大学は12月24日、ユニークな特徴を持ったナノサイズの立方体結晶「ナノキューブ」をリチウムイオン電池(LIB)に加えることで、従来のLIBに対し、充放電時間を短縮することに成功したと発表した。
同成果は、岡山大 学術研究院 自然科学学域の寺西貴志准教授、産業技術総合研究所 極限機能材料研究部門の三村憲一主任研究員らの共同研究チームによるもの。詳細は、界面とそのインタフェースに関する学術誌「Advanced Materials Interfaces」に掲載された。
リチウムイオン電池を活用したバッテリー電気自動車(BEV)の世界的な普及が進んでいるが、課題としてその充電時間の長さがある。一般的に、リチウムイオンが電解液と電極の間を移動する際に生じる電気化学反応の抵抗は高いことが知られている。この移動抵抗こそが、電池の出力特性を支配する大きな要素の1つとされている。
研究チームはこれまでの研究から、誘電体からなるナノサイズの粒子を、正極材料と電解液の間に導入することで、リチウムイオンの動きが加速されるという新しい現象を見出していた。一定条件下において、誘電体ナノ粒子の表面にリチウムイオンが選択的に吸着し、その表面においてリチウムイオンの動きが加速されるという。
そこで今回、水熱法と呼ばれる合成法で作ることが可能な、「ナノキューブ」と呼ばれるユニークな特徴を持ったナノサイズの立方体結晶に着目したという。
ナノキューブは、表面に残留するオレイン酸が立体障害を起こすことで、高い分散性を示すことが明らかにされている。さらに、形状が立方体であることから、電極表面と密着性が高い面接触が可能だ。ちなみに研究チームは、これまでの研究で合成方法の最適化を行い、高い結晶性を有する単結晶かつサイズのそろったナノキューブを作製することに成功しているという。
ナノキューブがLIBに導入されると、ナノキューブに吸着したリチウムイオンが溶媒分子を脱離し(脱溶媒和)、表面拡散を経て、最終的にナノキューブ、活物質、電解質の三相が交わる界面付近から正極内に挿入される。
このナノキューブを介したリチウムイオンの移動が短時間に起こることが、電池の急速充放電が可能となる仕組みであり、実際に、誘電体のナノキューブとして「チタン酸バリウム」(BaTiO3)を用い、小型コインセルによる3分間の急速充放電試験を行ったところ、ナノキューブを加えた電池は、加えていない従来電池の約4.3倍の電気容量が得られることが確認されたという。これは満充電までに要する時間が従来のおよそ1/4で済むということを意味するという。
なお、今回の研究成果は、LIBの電極と電解液の間にナノキューブを添加剤として少量加えるだけで、電池の充放電速度を劇的に改善できるというものであり、工業的にもその価値は高いと考えられると研究チームでは説明しているほか、将来的には、数秒以内での超急速充放電を可能とするような次世代電池の実現につながる研究成果になる可能性があるともしている。