不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME'S」の運営などで知られるLIFULL。同社は2020年10月に発表した中期経営計画にて、自社を「ソーシャル・エンタープライズ(社会的企業)」に位置付けた。

ソーシャル・エンタープライズとは、社会課題の解決と事業の成長を両立する企業を指す。LIFULLはこれまでも事業を通じて社会課題の解決に取り組んできたが、中期経営計画で改めて方向性を強調したかたちだ。

では、LIFULLは具体的にどんな社会課題に、どのように取り組んでいくのか。同社の展望を知る上で重要になるのが「LIFULLアジェンダ」の存在である。LIFULLアジェンダの運用を取り仕切るLIFULL クリエイティブ本部 未来デザイン推進室の木村紗希氏、実行においてテクノロジー面を統括するCTOの長沢翼氏に、その取り組みについてお話を伺った。

なぜ、アジェンダ化が必要なのか

LIFULLアジェンダとは、LIFULLが取り組んでいくべき社会課題とは何なのか、その先にどんな未来を実現したいのか、などを明確にしていくためのスキームである。だが、そもそも社会課題に取り組む上で、なぜアジェンダ化が必要なのか。その理由について、木村氏は「単に『社会課題を解決しよう』というだけでは漠然としており、社員一人一人が思い浮かべる内容も粒度もばらばらになってしまうから」と説明する。

確かに、一口に「社会課題」と言っても、その種類は千差万別だ。例えば、貧困、格差、高齢化、待機児童、ジェンダー不平等、気候変動……どれも社会問題ではあるが、人によって解決すべき優先度は変わるだろうし、温度感も異なるだろう。LIFULLとして社会問題の解決に取り組むのであれば、まずは社員一人一人が課題を具体的に捉え、できるだけ視座をそろえる必要がある。そこで、LIFULLアジェンダが重要になるのだ。

LIFULLアジェンダの策定に向けて、2020年10月に発足した部署がクリエイティブ本部 未来デザイン推進室である。同部署の役割は、社会課題を発見し、アジェンダ化した上で、LIFULLの事業と結び付けていくことだ。

「有識者の声や生活者の声、現場の意見、一般的な調査データなどのファクトを集め、社会課題の“種”を見つけて整理し、アジェンダとして磨いていくのが私たち未来デザイン推進室です」(木村氏)

  • 木村紗希氏

    LIFULL クリエイティブ本部 未来デザイン推進室 木村紗希氏

もっとも、未来デザイン推進室だけがアジェンダ作りに奔走しても意味はない。社会課題の解決は、LIFULLが全社で取り組む目標だ。したがって、LIFULLアジェンダは、LIFULLを構成する社員全員が腹落ちしたものでなければならない。

そこで、LIFULLが2021年6月~7月、4回にわたって実施した全社イベントが「SOCIAL INNOVATION FORUM」である。