新潟大学は、無作為抽出した都市部一般住民を対象に、ものを細かく噛む能力(咀嚼能率)とメタボリックシンドローム罹患との関係を探る平均4.4年追跡した調査を実施し、男性においては咀嚼能率が低い場合メタボの新規罹患率が2.2倍高く、特に血圧高値、脂質異常、高血糖のリスクが高いことを確認したことを発表した。

なお、こうした傾向は女性では見られず、「よく噛めない」ことは生活習慣病リスクになるが、性差があることに注意が必要だとしている。

同成果は、新潟大学大学院 医歯学総合研究科 包括歯科補綴学分野の小野高裕教授、大阪大学 大学院 歯学研究科 顎口腔機能再建学講座 有床義歯補綴学・高齢者歯科学分野の池邉一典教授、国立循環器病研究センター 健診部の小久保喜弘特任部長らの研究グループによるもの。詳細は、学術雑誌「Frontiers in Cardiovascular Medicine」で11月26日付で掲載された。

同研究は、大阪府吹田市の地域住民から性年代階層別に無作為抽出された対象者のうち、2008年以降に健診受診した50~70歳代に歯科検診を実施。調査期間内に2回受診した937名のうち、初回検査時にメタボとは診断されていなかった599人(男性254人、女性345人)を分析対象としている。

咀嚼能率の測定は、専用に開発されたグミゼリーを30回噛んで増えた表面積を算出する方法を用い、下位1/4を「低値群」、それ以外を「非低値群」とし、フォローアップ検査時の新規メタボならびにその構成要素(血圧高値、高血糖、脂質異常、肥満)の罹患について、年齢、喫煙、歯周病の影響を調整した解析を行って「非低値群」に対する「低値群」のリスクを男女別に算出したという。

  • 咀嚼能率の測定方法

    咀嚼能率の測定方法(出典:新潟大学)

  • 概要

    研究方法の概要(出典:新潟大学)

追跡調査期間は平均4.4年で、この間に88名が新たにメタボに罹患。男性の場合、「非低値群」に対する「低値群」のメタボ罹患率は2.24倍で統計学的にも有意だったが、女性の場合は1.14倍で統計学的に有意ではなかったという。

メタボの構成要素の新たな罹患率についても同様に男性においてのみ有意なリスク比が得られ、その値は血圧高値で3.12倍、高中性脂肪血症で2.82倍、高血糖で2.65倍となったとしている。

すなわち、男性の場合、規格化された方法で測定した咀嚼能率低値群で、将来において血圧高値、高中性脂肪血症、高血糖ならびにメタボに罹患するリスクが、咀嚼能率非低値群と比較して2倍以上高いということが示され、2016年に発表した横断解析の結果を裏付けたと言うことができると研究チームでは説明している。

また、そのメカニズムとして、従来指摘されて来た咀嚼能率の低下による食物・栄養摂取への影響が介在していると考えているといい、性差については、女性の場合、閉経期以降のホルモンの変化による影響が大きく、また食習慣の違いなどから、男性と比べて咀嚼能率低下の影響が出にくかったのではないかと考察している。

  • メカニズム

    咀嚼能率低下がメタボリックシンドローム罹患を促進するメカニズム(出典:新潟大学)

なお、研究チームは今後、咀嚼能率の低下と食習慣との関係を明らかにしていくことによって、より具体的な指導や改善プログラムが提案できるのではないかとしている。