ロイヤリティフリーのストックミュージックサービス「Audiostock」を展開するオーディオストックは、11月にシリーズCラウンドにおいて約6.7億円の第三者割当増資を実施するなど、成長を遂げている。
「Audiostock」は音楽クリエイターやアーティストが制作した楽曲や効果音などを掲載して販売するサービス。YouTubeやInstagram、TikTokなど動画配信プラットフォームの台頭により、BGMやSE(効果音)としての利用を中心に需要が高まっている。
今回は、同社が日々の業務で大切にしているという「雑談」や「コミュニケーション」についての具体的な取り組みと、事業として次に狙う重点施策を、同社の代表取締役社長である西尾周一郎氏とEngineering Managerを務める逸見誠氏に聞いた。
同社は岡山県岡山市と東京都品川区にオフィスがあることから、新型コロナウイルス感染症の流行以前からリモートワークが導入されていたという。子どもの面倒を見るためにリモートワークで勤務するなど、比較的自由に勤務場所を選べる環境が整っていたようだ。
特に2018年は西日本で豪雨や大風が相次いだため、災害を経験してリモートワークの導入には以前から前向きだった。こうした背景があるため、2020年に発令された緊急事態宣言下においても、完全リモートワークへの移行に大きな障壁はなかったという。
岡山と東京を中心に計8名が所属するという同社の開発部に着目すると、オンラインゲームでのコミュニケーションに特化したソフトウェア「Discord」を常時立ち上げている点が特徴的だ。ソフトウェア上で音声通話専用のルームを立ち上げることで、ルームに参加しているメンバーが自由に音声でやり取り可能となる。
業務中に同ソフトウェアを立ち上げておくことで、開発部メンバー用のルームに全員が参加し、いつでも音声でのコミュニケーションが取れるようになる。会話が不要な場合はミュートしておくのだそうだ。
「さまざまなコミュニケーションソフトを試してみたが、Discordはほかのソフトウェアよりも動作が軽い利点がある。開発作業中に常に立ち上げておいても端末の処理への負荷が少ない」と逸見氏は言う。
オフィスでの勤務と比較して、リモートワーク環境では質問や雑談を投げかけづらい場面があるだろう。Discordを導入したことで、オフィスの中にいながら「ちょっといい?」と質問するのと同様のコミュニケーションを生み出せているとのこと。
さらに、開発部ではチームワークの向上を目的として意識的に雑談の機会を設けているようで、毎日30分間実施している終礼のミーティングのうち15分間は雑談に充てている。日々の業務で感じた疑問や課題なども含めて、オープンに話し合える時間を作っているという。
コミュニケーションは開発部に限らず全社的に推奨している。毎年開催している「オンライン合宿」では、数人のチームごとに分かれて謎解きゲームなどでコミュニケーションを図っており、日々の業務ではなかなか関わる機会が少ない社員とも交流する機会となっている。
人員が増えている近年では、新入社員の志望動機だけでなく趣味や人となりを取材する「インタビューラジオ」にも取り組んでいる。ラジオは社内で共有され、全従業員が視聴できるのだという。
そのほか、全社員をランダムに5人程度ずつに振り分けて30分間雑談をする「シャッフルズーム会」や、週次で実施している全社ミーティングの時間を利用して、雑談をする時間を意図的に作っているという。ここでの話題は自由に設定でき、好きな映画や音楽といった趣味の話が膨らんでいるとのことだ。
このように、業務の中に「雑談」をうまく取り入れながら成長を続ける同社だが「2022年は海外市場に本格的に挑戦したい」と西尾氏は語った。
同社の事業であるストックミュージック業界について海外に目を向けると、日本円にして50億円の出資を受けるイスラエルの企業や、500億円程度の出資を受けるスウェーデンの企業なども現れ始めた。
このように市場が盛り上がりを見せる中で、インドやタイなど人口増加が著しいアジア地域を中心に海外展開を目指すという。国によっては著作権への意識が日本と異なる場合があり、そうした点が課題となり得る。
欧米向けには和風の楽曲や、アニメ、ゲームといった日本ならではの音楽を打ち出してく予定だ。
「日本国内では、動画制作に関わる全員がターゲットである」と西尾氏。
近年は一般企業の広報担当者がYouTubeなどのプラットフォームを利用して動画広告を配信する例が増加しているほか、一般の生活者もSNSや動画配信サービスに自作の動画を容易にアップロード可能だ。
放送業界や広告業界などで動画編集に携わる人でなくても誰もが容易に動画を作成する機会が増えた現代においては、これまで以上に多くの人がストックミュージックを利用する場面が増えている。
「動画クリエイターや企業の動画コンテンツ配信者まで、音楽が必要な全ての人のニーズに応えていきたい」と西尾氏は語った。