東京工業大学(東工大)、高純度化学研究所、東北大学の3者は12月21日、高い酸化物イオン伝導度を示し、希土類を含まない、燃料電池の固体電解質などに適した新物質「Ba7Ta3.7Mo1.3O20.15」を発見したと発表した。
同成果は、東工大 理学院化学系の村上泰斗特任助教(現・東北大 大学院工学研究科 助教)、同・八島正知教授、高純度化学研究所の柴田稔也研究員、豪州原子力科学技術機構のヘスター・ジェームス博士らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、ナノスケールおよびマイクロスケールの学際的な科学を扱う独学術誌「Small」に掲載された。
酸化物イオン伝導体は固体酸化物形燃料電池(SOFC)や酸素分離膜、ガスセンサなど、クリーンエネルギー・環境分野で幅広く利用されているが、現在実用化されているSOFCは、動作温度が600~1000℃と高く、より幅広い普及のためには中低温域(300~600℃)でも高い酸化物イオン伝導度を示し、強還元雰囲気においても安定、かつ安価な材料が必要とされている。
しかし既存の材料の結晶構造は、蛍石型や立方ペロブスカイト型構造など、一部の種類に限られており、使用できる元素の種類に制約があり、その多くに安定性や安全性に問題があったり、高価な希少元素を含んだりするという課題があり、それらを解決する新しい物質が求められていた。
東工大の八島教授らは最近、六方ペロブスカイト関連酸化物に属する「Ba7Nb4MoO20」系材料が、高い伝導度を示す酸化物イオン伝導体であることを発見し、同材料の再現性よく安価・簡便に合成する手法を、高純度化学研究所と共同で開発したものの、同材料は、高い酸化物イオンの伝導に重要な格子間酸素の量が十分でなく、強還元雰囲気で電子伝導を示すという欠点を抱えていたという。また、Nb原子とMo原子がそれぞれ結晶構造中で占有するサイト(席)が明確でなく、伝導メカニズムを理解する妨げになっていたともいう。
そこで研究チームは今回、希土類を含まない六方ペロブスカイト関連酸化物の新物質「Ba7Ta3.7Mo1.3O20.15」を合成。同物質が、これが中低温域で既存材料を上回る高い酸化物イオン伝導度を示すことを確認したという。
また、同物質の全電気伝導度は広い酸素分圧の領域で一定であり、909℃酸素分圧が1.6×10-24atmという高温還元雰囲気の条件であっても、発電効率を下げる電子伝導を無視できるという電気的安定性が示されたほか、X線回折パターンから、強還元雰囲気での伝導度測定の前後で変化がなく、化学的安定性が高いことも確認したという。
今回合成された物質の結晶構造には、BaとOが最密充填したBaO3層(c層とh層)とは異なる、本質的な酸素欠損層(c′層,BaO2.15層)が存在しており、このc′層内には格子間酸素が存在し、これが酸化物イオン伝導を担っていることが判明したほか、Moが酸化物イオン伝導層であるc′層に隣接するサイトを優先的に占有していることも確認されており、この成果は六方ペロブスカイト関連酸化物における高い酸化物伝導度発現のメカニズムの理解と設計方針の確立に貢献するものだといえると研究チームでは説明しており、今後、今回示された新たな設計指針に沿った新物質のさらなる発見につながることが期待されるとしている。
なお研究チームでは、Ba7Ta3.7Mo1.3O20.15は高い伝導度と安定性を併せ持つことから、燃料電池の固体電解質やガスセンサ、酸素分離膜材料として魅力的だとコメントしている。