老化とともに増殖力が低下して認知機能の衰えにつながる神経幹細胞を遺伝子操作で若返らせることにマウスの実験で成功した、と京都大学の研究グループが発表した。老化マウスの認知機能が改善したことも確認したという。ヒトにも応用できるかどうかは現時点では不明だが、研究グループは将来、アルツハイマー病などの治療法の開発につながる可能性もあると期待している。

研究グループは京都大学ウイルス・再生医科学研究所の貝瀬峻研究員、影山龍一郎客員教授のほか、同大大学院生命科学研究科の今吉格教授、小林妙子准教授、山田真弓助教や博士課程の学生らで構成された。

同グループによると、神経幹細胞は脳にあり、神経細胞(ニューロン)の元になる。胎児の時は活発に増殖してニューロンを増やすが、成長とともに増殖能力やニューロン産生能力は低下する。大人の神経幹細胞でもある程度増えてニューロンを産生し、ニューロンは記憶や学習に重要な役割を果たす。しかし、老化とともに神経幹細胞は増殖能力やニューロン産生能力をほぼ失い、その結果認知機能が低下するという。

これまでの研究では、老化状態になった神経幹細胞を若返らせて増殖能力やニューロン産生能力を復活させることが可能かは不明だった。貝瀬研究員らは、胎児のマウスや老化マウスで多く発現する遺伝子をそれぞれ人工的に発現させたり、発現しないよう抑えたりするなどして、胎児と老化した脳でそれぞれ働く遺伝子を詳しく比べた。

その結果、胎児マウスでよく発現している遺伝子の転写因子80種類のうち、神経幹細胞を最も活性化する遺伝子の転写因子を突き止めた。また、老化マウスの神経幹細胞で多く発現している遺伝子の特定の転写因子などを抑えると、神経幹細胞が活性化することも判明した。

研究グループはこれらの成果を基に、胎児マウスの特定の遺伝子をたくさん働かせ、一方老化マウスの特定の遺伝子を抑える手法を組み合わせ、神経幹細胞を最も活性化させる方法を開発した。この方法を「iPaD(inducing Plagl2 and anti-Dyrk1a)」と名付け、老化マウスの脳をiPaDで遺伝子操作した。

すると、老化して増殖能力をほぼ失っていた神経幹細胞を効率よく活性化し、若返らせることに成功した。さらに若返った神経幹細胞が3カ月以上増え続けることを確認した。このように遺伝子操作したマウスは老化していても学習、記憶能力も改善したことも確かめたという。

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    マウスの神経幹細胞を若返りさせる方法「iPaD」の概念図(京都大学提供)

貝瀬研究員と影山客員教授らは、今回のマウスで確認したiPaDの方法が霊長類にも適用できるかを確かめる研究を続ける予定。神経幹細胞を活性化させて新たな神経細胞を作り出す技術を応用し、アルツハイマー病などの脳疾患治療の開発につなげたいとしている。研究成果は米科学誌「Genes&Development」電子版に16日掲載された。

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