東北大学は12月17日、薄膜技術による構造安定化を活用し、酸化チタンの一種である「ラムダ(λ)型5酸化3チタン」の高品質な単結晶のサイズを、従来のナノメートルサイズから、およそ100万倍となる5mm角へと大型化することに成功したと発表した。

同成果は、東北大 多元物質科学研究所の吉松公平講師、同・組頭広志教授らの研究チームによるもの。詳細は、米化学会が刊行する結晶の成長とデザインを扱う学術誌「Crystal Growth & Design」に掲載された。

安価かつ安全な材料であり、光触媒効果を示す「二酸化チタン」(TiO2)は、ビルの外壁など、さまざまな場所に用いられている機能性材料であり、そのTiO2から酸素量がわずかに少なくなったTi3O5はα型、β型、γ型、δ型、λ型と、さまざまな結晶多形を持つ物質として知られている。

中でもλ型は、準安定な結晶であり、外から光・電流・圧力の刺激が加えられることで、別の型へと自在に変化するという特徴を備えることから、光学メディアや相変化メモリへの応用が期待されている。

しかしλ型Ti3O5を応用するにしても、これまで合成された結晶サイズはナノメートルオーダーに留まっており、実デバイスとしての利用のためにはより大きなサイズの結晶を実現する必要があった。そこで研究チームは今回、λ型Ti3O5結晶の合成において薄膜技術を活用し、高品質と同時に大型化することに取り組むことにしたという。

  • ラムダ型5酸化3チタン

    λ型Ti3O5薄膜の画像 (出所:東北大プレスリリースPDF)

今回、研究チームでは「パルスレーザ堆積法」と呼ばれる薄膜合成法を選択。気化したTiO2原料を1100℃の超高温で堆積させることで、基板上に直接合成させる手法を用いることで、5mm角の基板上に均一にλ型Ti3O5が形成されていることを確認したほか、X線回折測定からλ型が持つ平行四辺形の構造が一方向に傾いている様子が観測され、傾きの反転により生じる欠陥のない高品質な薄膜が形成されていることが判明したという。

  • ラムダ型5酸化3チタン

    λ型Ti3O5薄膜の電子顕微鏡画像。薄膜部分の白い点がチタン原子。λ型Ti3O5の結晶の模式図とチタン原子の配置が一致していることから、λ型Ti3O5薄膜が基板上に直接形成されていることがわかる (出所:東北大プレスリリースPDF)

研究チームでは今後、大型化に成功したλ型Ti3O5薄膜を用いて光や電流刺激による相転移発現を進めることで、光・電子デバイスへの応用につながることが期待されるとしている。

  • ラムダ型5酸化3チタン

    λ型Ti3O5薄膜の結晶構造の整列。(左)X線回折測定結果。試料を両方向から見た2つの測定で別々の角度に単一のピークが見えており、薄膜全体で結晶が傾き反転せずに一様に整列していることがわかる。(右)λ型Ti3O5の結晶整列の模式図。上の図は今回の研究の傾き反転なしを示す。下の図のように傾きが反転すると欠陥構造が生じ、結晶の品質が悪化する (出所:東北大プレスリリースPDF)