広島大学は12月17日、物質中の電子たちの持つエネルギーがどのように振る舞うのか一目でわかる定理を理論的に証明することに成功したと発表した。
同成果は、広島大大学院 先進理工系科学研究科 量子物質科学プログラムの多田靖啓准教授によるもの。詳細は、米物理学会が刊行する主力学術誌「Physical Review Letters」に掲載された。
物質の冷えやすさはさまざまで、特に絶対零度近くまで冷やすときは物質の個性が如実に現れ、絶縁体は冷えにくい一方で、金属は冷えやすいという特徴が知られている。この違いは、電子が熱を素早く運ぶことができるかどうかで決まり、物質中に存在する無数の電子が持ち得るエネルギー分布の様子(エネルギー・スペクトル)によって理解することが可能とされている。
冷えやすさだけでなく、物質の持つさまざまな性質はエネルギー・スペクトルによって定められているが、それを理論的に計算することは単純な物質では可能だが、一般的にはスーパーコンピュータを用いたとしても正確な計算は不可能とされているため、エネルギー・スペクトルの振る舞いを解明することは、物性物理学の基本問題の1つとなっている。
これに関して、物質中の電子に対する近似的なモデルにおいては、電子の密度だけで低エネルギー・スペクトルの基本構造が定まってしまうという普遍的な性質が理論的に示されており、「Lieb-Schultz-Mattisの定理」として知られている。この定理はさまざまな形で拡張されてきたが、現実の物質中で電子同士が「クーロン相互作用」する場合については証明がなく、定理が成り立つのかどうかわかっていなかったという。
そこで多田准教授は今回、近似的モデルを超えて電子がクーロン相互作用する現実的なモデルでも、Lieb-Schultz-Mattisの定理が成り立つことを理論的に証明することにし、それを成し遂げることに成功した。この定理は、単純な絶縁体や金属の判別だけでなく、自発的対称性の破れやトポロジカル秩序などの性質を示す物質の候補を絞り込む際にも有用であるという。
今回証明された定理には、たくさんの応用が考えられるとのことで、その1つとして超伝導体があり、同定理から導き出される理論的帰結は、これまで広く信じられてきたものとは定性的に異なるとするほか、証明に用いられたテクニックは、さまざまなモデルに拡張して適用することが可能であることから、今後は、これらの場合について議論を発展させていくことが重要となるとしている。