東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)は12月16日、欧州宇宙機関(ESA)の位置天文衛星「ガイア」の観測データを解析して、これまでほとんど調べられていなかった天の川銀河の円盤外縁部における星の分布の3次元地図を作製することに成功したと発表した。
同成果は、Kavli IPMUの シェルヴィン・ラポルテ特任研究員(現・スペイン・バルセロナ大学 宇宙科学研究所 研究員)らの研究チームによるもの。詳細は、英国王立天文学会発行の天文学術誌「Monthly Notices of the Royal Astronomical Society」に掲載された。
天の川銀河は、銀河として大きい部類に入ることが知られている。その正確な年齢は不明ながら、推定で100億年前後といわれており、その歴史の中で、数多くの矮小銀河を取り込むことで大型化してきたと考えられている。また、周囲にはまだ50個ほどの衛星銀河が存在していることも分かっている。
しかし矮小銀河とはいえ、衝突合体の際には天の川銀河の星々も影響を受ける。例えば、「いて座矮小銀河」と衝突した際には、星々の位置が大きくかく乱されたとされている。近年、天の川銀河の外縁部に発見されたのが、いて座矮小銀河との衝突よりも前の時代に起きた「ガイア・ソーセージ」と呼ばれる衛星銀河との衝突痕だという。
天の川銀河の外縁部には、恒星が分布したフィラメント状の構造が見られる。研究者たちはこの構造に対し、天の川銀河が過去にさまざまな衛星銀河との衝突・合体した際の相互作用によって生じた潮汐作用による「潮汐腕」の痕跡であると考察している。
これまでの研究から、円盤外縁部にあるフィラメント状の構造のうち、「Anticenter Stream」と呼ばれるものには、約80億年以上前の星が多く含まれていることが明らかになっている。これはいて座矮小銀河ではなく、ガイア・ソーセージとの衝突が起源であると考えられているとするが、こうした構造のすべてが、矮小銀河を取り込んだ結果、つまり外的要因の潮汐腕の名残りとして形成されたというわけではなく、天の川銀河の円盤内における垂直方向の密度波という内的要因に起因する可能性もあるという。
そこで研究チームは今回、天の川銀河の円盤外縁部における新しい星の地図を作製することにしたという。地図作製のデータとして用いることにしたのが、天の川銀河の3次元地図の作製を目的として、ESAが2013年に打ち上げた位置天文衛星ガイアの観測データで、今回の研究には、ESAが2020年に公表した「早期データリリース3(EDR3)」と呼ばれる3回目のデータを用いたという。
これまで、塵による減光の影響のため、天の川銀河の円盤外縁部における星の分布はほとんど調べられてこなかったというが、今回、ガイア衛星のデータから個々の星の運動(固有運動)の測定結果を用いることで、星分布の3次元地図を調べることに成功。これまで知られていた天の川銀河の構造の全体像をより鮮明に描き出すことができるようになり、その結果、天の川銀河の円盤外縁部に、これまで知られていなかったフィラメント状の構造が多数存在することが判明したという。
これまでの研究からこうしたフィラメント状構造は、天の川銀河が過去に周囲の衛星銀河と衝突・合体した際の相互作用によって形成されたと考えられているが、今回発見された数は、ラポルテ特任研究員らも予想外とするほど膨大であり、今後の詳細な研究が必要になるとしている。
なお、研究チームでは、すでにスペイン・カナリア諸島のラ・パルマ天文台にあるウィリアム・ハーシェル望遠鏡に搭載された分光観測装置「WEAVE」を用いた観測など、新たな観測計画が開始しており、そうしたさまざまな角度からの分光観測を進めていくことで得られた、恒星の視線方向の速度や化学組成、恒星年齢などの情報を活用することで、こうした構造に含まれる恒星の起源やフィラメント構造自体の成り立ちについて明らかにしていきたいとしている。