国立天文台(NAOJ)は12月14日、重水素の割合が星の誕生時に最大になることを利用して、星が生まれそうな現場を野辺山45m電波望遠鏡を使って特定し、2020年に発表した「もうすぐ星の生まれる場所のカタログ」を補完する「電波地図」を完成させたことを発表した。
また今回の観測により、オリオン座大星雲の西側にあるフィラメント状の分子雲に、もうすぐ星が生まれそうな場所が2か所あることなどが明らかになったことも併せて発表された。
同成果は、NAOJ 野辺山宇宙電波観測所の立松健一所長らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。
太陽の年齢は約46億歳で、その寿命は約100億年といわれている。また、太陽のような星(G型星)は、大人になるだけでも約3000万年かかるといわれているほか、最晩不安定状態にあるようなオリオン座の赤色超巨星ベテルギウスであっても、超新星爆発まではおよそ10万年ほどかかると考えられている。そのため、望遠鏡で太陽系外の遠い宇宙を観測した場合、長い時間をかけないとその変化はなかなかわからない。
そこで重要になってくるのが、宇宙における天体の年代測定であり、そこでは重水素が重要になってくるという。星の生涯において、軽水素に対する重水素の割合を見ると、近年、その割合が大きく変化する時期があることがわかってきた。具体的には、生まれる前の分子雲コア中では、星間ガスや星間ダストが集積し、原始星として誕生すべく成長していくのに合わせて、重水素の割合が高くなっていくものの、ひとたび星が誕生すると、急にその割合が減少することがわかってきたという。
今回の観測では野辺山45m電波望遠鏡により、重水素の割合が大きいもうすぐ星が生まれる場所が特定され、2020年に発表された「もうすぐ星の生まれる場所のカタログ」を補完する電波地図が完成となった。この観測により、オリオン座大星雲の西側にあるフィラメント状の分子雲に、もうすぐ星が生まれそうな場所が2か所あることなどが判明したという。ただし、もうすぐといっても、10万年単位の話である。
なお星の誕生は、通常は安定と考えられている「分子雲コア」が、何らかの原因で「不安定」になることによって起こると考えられている。しかし、その原因が何であるのかは解明されていない。つまり、どのようにして分子雲コアから星が誕生するのか、そのプロセスのきっかけがわかっていないということである。
なお、星形成のきっかけとしては、「乱流(さざ波)減衰モデル」と「体重増加モデル」が有力視されている。今回の研究では、乱流の大きさをドップラー効果によって精密測定することにより、乱流減衰モデルの観測的証拠の探索も行われたが、その証拠は得られなかったことから、体重増加モデルが有力である可能性があると研究チームではコメントしている。