宇宙航空研究開発機構(JAXA)は12月15日、これまで不明だった原始惑星系円盤の外側領域(中心星から約10天文単位)の消失時間を、2基の赤外線天文衛星の観測データを足し合わせることで算出し、従来の内側から消失するという予想に反して、中間領域(約1天文単位)と外側領域では消失時間がほぼ同時の約140万年であることが示されたこと、ならびに円盤の支配的なダストの種類が、初期から存在する「1次ダスト」から、微惑星同士の衝突破壊で生成された「2次ダスト」へと切り替わる時間が、約800万年であることを観測的に明らかにしたことを発表した。
同成果は、東京大学大学院 理学系研究科 物理学専攻/JAXA 宇宙科学研究所(ISAS)の前嶋宏志氏(研究当時)らの研究チームによるもの。詳細は、日本天文学会が刊行する英文学術誌「Publications of the Astronomical Society of Japan」に掲載された。
生まれたての星の周りに存在する、惑星の材料となる星間ガスと星間塵(ダスト)からなる原始惑星系円盤は、中心星の進化とともに内側から徐々に消失すると考えられている。その消失時間や消失過程は惑星形成に影響を与えることから研究が進められており、円盤の内側領域から、1天文単位ほどの距離である中間領域までの消失時間はすでに明らかにされているものの、中心星からおよそ10天文単位ほどの円盤外側領域の消失時間については検出器の感度が低いなどの課題から観測することが難しかったという。
また、円盤を支配するダストの種類が、円盤形成前の分子雲コアから存在する星間塵の「1次ダスト」から、それらが衝突・合体して成長した微惑星同士の衝突破壊で生成された「2次ダスト」へと切り替わる時間も良くわかっていなかっという。
そこで今回の研究では、複数の赤外線波長帯における原始星の多数の画像を、JAXAの天文衛星「あかり」(2006年2月打上げ・2011年11月運用停止)と米国航空宇宙局(NASA)の赤外線天文衛星「Wide-field Infrared Survey Explorer(WISE)」という2基の天文衛星の観測データを用いて取得することにしたとする。
しかし、進化の進んだ円盤は赤外線強度が弱くなるため、検出が困難であることから、今回、原始星を年齢ごとにグループに分け、同一年齢グループの星の赤外線画像を足し合わせて平均化するという手法を考案。この手法ではノイズに埋もれて検出できない画像も含めて足し合わせるが、平均化によりランダムなノイズ成分が低下することで、個別画像より高い感度で平均赤外線画像を取得することが可能になるのがポイントだという。
この年齢グループごとの平均赤外線画像をもとに、赤外線強度の減衰時間が調べられたところ、ダストの消失時間は中間領域から外側領域にかけて約140万年と、ほぼ同じ時期であり、この領域において差がないことが判明。円盤は内側から外側へ向かって消失が進んでいくというこれまでの考えとは異なる結果となったという。また、支配的なダストが「1次ダスト」から「2次ダスト」へ切り替わる時間は、約800万年であることが観測的に確かめられたともする。
今回の研究では、原始惑星系円盤のダスト消失時間が定量的に示すことに成功したものの、どのような物理的過程により円盤が消失していくかについては、まだ議論の余地があるとのことで、研究チームでは、今回の研究結果を踏まえ、今後、惑星形成過程の理論的研究がさらに進むことが期待されるとしている。