順天堂大学と日本医療研究開発機構は12月13日、加齢関連疾患への治療応用を可能にする「老化細胞除去ワクチン」の開発に成功したと発表した。
同成果は、順天堂大 大学院医学研究科 循環器内科学の南野徹教授らの研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の老化と長寿の生物学を題材とした学術誌「Nature Aging」に掲載された。
加齢や肥満などの代謝ストレスによって、生活習慣病やアルツハイマー病などといった加齢関連疾患が発症・進展することが知られているが、その仕組みはまだ解明されていない。
これまで20年以上にわたって加齢関連疾患の発症メカニズムについて研究を進めてきたのが、南野教授らの研究チーム。加齢やストレスによって組織に老化細胞が蓄積し、それによって惹起される慢性炎症が、加齢関連疾患の発症・進展に関わっていることなどを明らかにしてきている。
最近の研究から、蓄積した老化細胞を除去(セノリシス)することで、加齢関連疾患における病的な老化形質を改善しうることが示されていたが、これまで報告されている老化細胞除去薬は、抗がん剤として使用されているものが多く、副作用の懸念があるという。そこで研究チームは今回、より老化細胞に選択的に作用し、副作用の少ない治療法の開発を目指した研究を行うことにしたという。
具体的には、老化細胞に特異的に発現している老化抗原候補のうち、すでにヒトの老化と関連があることが示唆されている老化抗原「GPNMB」についての解析を進めたところ、GPNMBはヒト老化血管内皮細胞において著明に増加するだけでなく、動脈硬化モデルマウスや高齢マウスの血管や内臓脂肪組織においても、その発現の増加が認められたほか、動脈硬化疾患のある高齢患者の血管においても、その発現が増加していることが確認されたという。
また、GPNMBを標的とした抗老化治療の可能性を、遺伝子改変モデルマウスを用いて調査。マウスに肥満食を与えた上で、薬剤によるGPNMB陽性老化細胞の選択的除去を行ったところ、肥満に伴う糖代謝異常や動脈硬化の改善が認められたとする。
そこでGPNMBを標的とした老化細胞除去ワクチンの開発を進め、接種にてGPNMBに対する抗体価が有意に増加するものを選別。肥満食を与えた状態のマウスに同ワクチンを接種したところ、肥満に伴って内臓脂肪に蓄積した老化細胞が除去され、脂肪組織における慢性炎症が改善することで、糖代謝異常の改善が得られることがわかったとするほか、動脈硬化モデルマウスでは動脈硬化巣において多くの老化細胞の蓄積が見られたが、老化細胞除去ワクチンによって老化細胞は除去され、慢性炎症の改善とともに動脈硬化巣を縮小させうることも確かめられたという。
さらに、高齢マウスにおけるワクチン接種後のフレイル状態の観察から、ワクチン非接種マウスと比べてフレイルの進行が抑制されていることが判明したほか、早老症モデルマウスに対するワクチン接種から、寿命の延長効果があることも確認されたとする。
加えて、同ワクチンは副作用が少ないことや効果の持続時間が長いことなども確認されたという。
なお、研究チームでは、今回開発された1種類ですべての老化細胞に対応できるわけではないとしており、今後は、各々の患者や疾患によって蓄積している老化細胞の異なる老化抗原を標的とすることで、個別化抗老化医療の実現が可能になることが考えられるとしているほか、今回の成果を踏まえ、アルツハイマー病を含めたさまざまな加齢関連疾患での検証や、ヒトへの臨床応用が期待されるとしている。